Underdog
4
「音合わせする時間はないよ」
「ぶっつけ本番だろ、分かってる」
「ホントにいけるんだな?」
「いけるよ」
「暴走するなよ」
「いつの話だよ」
秋栄がまるで過保護な母親のようにせき立てる中、ハルはもくもくと準備をする。
こうしている間にも、出番は着実に近付いている。
ハルの赤いギターが視界に入った。
あいつの部屋でやった地獄の特訓を思い出す。あれからも、メンバーから外れた後も、ずっと練習してたんだろうか。
だとしたら……。
だとしたら、すげぇバカだ。
拍手喝采が聞こえ、前のバンドの演奏が終わったんだと分かる。
「出番だ」
ハルが立ち上がった。
「負け犬らしく吠えますか」
秋栄が欧米人のように肩をすくめてみせる。
亮がクルッとスティックを回した。
これが最後になるかもしれない。そんな不吉な可能性は今は忘れよう。
このステージを見に来てくれた人達。対バンを承諾してくれたシンシアの人達。赤磐さんたち。それから、メンバー。
すべての気持ちに真摯に答えたい。
「行くよ」
俺達はスポットライトの下に足を踏み出した。
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