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Underdog


ちらりと俺の顔を覗き見たハルはふっと笑う。

「何泣きそうになってんだよ。ビビってんの?」

慌てて目を擦った。
なんでそんな意地悪な台詞を、今まで見たことないくらい優しい顔で言うんだ。

「だ……誰が泣くかよ」

なぜか安心して涙腺が緩んでただけだ。
――なんて死んでも言わない。



「ハル……?」
「なんで?」

控室に戻ると、俺と同じようにキョトンとした二対の視線が隣の人物に向けられた。
どこから説明すれば良いんだろう。俺がグルグル迷ってるうちにハルが口を開いた。

「……真吾は腹痛で来れない」
「それで、ハルがきたってわけ?」

問いただす亮の声は冷ややかだった。
無理もないか……別れ際のやり取りは最悪だったからな。

「状況は分かってる」
「だからって真吾と同じ演奏が出来るの?」
「音は聴いてる」
「またぶち壊さない?」
「壊さない。約束する」

じっとハルを睨みつけていた亮は、次に秋栄を振り返った。

「……いい?」
「俺は構わないよ」
「ホントに?」
「真吾が来れないんだし、これが最善だと思う。……俺達の目的はハルを追い出すことじゃないはずだろ」

秋栄が俺を見た。「そんなの、当たり前だろ」

机の上に置かれた、今日のライブの告知ポスターをとんとんと指で弾く。

またタクトさんの視線と赤磐さんの台詞が蘇る。
それを掻き消すように、ステージを見上げながらいつ始まるのかと期待に胸を躍らせてるだろう観客のざわめきが聞こえてきた。

そうだよ。
目的は最初からただ一つ。

「――ライブを成功させること、だよ」




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