Underdog
8
爆笑して休憩も終わり。
再び地獄の特訓が始まった。
さっきよりも気持ちは前向きになっていた。
練習もいいけど適度な休憩も大事だという良い証明だ。
途中、暑くなってエアコンをつけた。
喉が資本の俺は、2リットルのペットボトルを1本半飲み干していた。
この空間に名前を付けるなら、間違いなく「ストイック」だ。
しかし、気になることが。
「……あのさ、さっきから思ってたんだけど」
聞き飽きたフレーズをさらに奏でようとする前に、声を挟んだ。
「妙に音がもたついてるような気がするんだよな、……今練習してるところだけ」
全体的な完成度が高かったから最初はそうでもなかったんだけど、段々そこばかり耳につくようになってきた。
「……気付いたか」
ハルは苦々しげに楽譜を見せた。
その箇所だけ書き込みがすごい。
「バカ」とか「いつか殺す」という低レベルな罵り文句のほかに「ひたすら練習!」とか「だれかに聞かせる?」とかいうセルフアドバイスもある。
これを実践したってことか。
「苦手なんだよ、こういうピッキング」
またこのヘビースモーカーはタバコに手を伸ばした。
「この間の飲み会の時にうっかり喋っちまったんだけど、それを聞いてたとしか思えない」
「まさか……」
「秋栄も同じようなこと言ってたから、ほぼ間違いないぜ」
ハルは細長く煙を吐き出した。
そして、導かれる答えを言う。
「あいつは、真吾は、わざと俺達の苦手な曲を作りやがった」
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!