Underdog
6
「亮はドラムだろ?」
「うん。……ほかに出来る楽器ないし」
予想以上に声が沈んでいる。
そういえば、席についてからほとんど目も合わせようとしない。
「もしかして自信ないとか?」
「……んー、なかなか苦手なところを突いてくるんだよね、あの曲」
小さくつぶやくと、キウイサワーをぐいっと飲みほす。
俺はフライドポテトをちびちびつまみながら、ビールで胃袋へ流し込んでいた。
店内のBGMが静かなバラードに変わった。
流行りの映画の主題歌にもなっている洋楽だ。
聞くとはなしに耳を傾けていると、
「……何やってるのかな、俺達」
亮がようやく本音を漏らした。
「……やりたいことやってるんだろ。赤磐さんの言葉を借りればさ」
「そうだけど、なんか違う……ってのは贅沢な愚痴だよね、やっぱり」
亮はどこか苦しそうに、無理矢理笑みを作った。
その気持ちは痛いほど伝わってきた。
俺だって同じだ。
まっとうな(はずの)会社に就職を決めて、人並みに働いて人並みに稼いで……という人生のレールにつもりだった。
なのに、どうしてまたマイクをとったりスティックを握ったりしてるのか。
思い通りにならないのが人生だ、とは言うけれど。
ネガティブな考えを振り払うべく頭を振り、極力明るい声を作った。
「――でも、亮に会えたことは後悔してないつもりだよ。亮は、俺に会ったこと後悔してる?」
亮は驚いたように顔を上げ首を振った。酔いが回っていたのもありふらついた体は一人じゃ立ってられず、ぐらぐらしたあげく俺にもたれるようにして止まった。
――あれ、小柄だと思ってたけど案外俺と体格変わんないかも。
寄り掛かったままの体勢で、亮はごそごそとケータイを取り出した。
「じゃあ、後悔してないぞ記念に!」
「何だそりゃ」
すっかりもとの脳天気な声に戻っている。
勝手にカメラを起動させ、シャッターを押した。
擬似シャッター音がして、撮影完了。
画面を覗いてはニコニコしてる。
「何撮ってんだよ……」
力ずくでケータイを奪って消そうかと思ったけど、あれで亮の気持ちが晴れるならまぁいいか。なんて思ってしまった。
一人で帰れる、と言い張るから、仕方なく駅で別れた。
あとで約束通り「帰れたよ」メールをくれたからよしとするか。
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