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Underdog


練習に付き合え、とハルからメールが来たのは、それから数日後のことだった。
プライド高そうなのに、わざわざ俺を呼ぶなんて、よっぽど負けず嫌いなんだろうな。
真吾の書いた曲は、聞いてる分には綺麗な旋律で心地好いんだけど、弾く側となると話は別だ。
かなりの技術力を要する箇所が至るところに散りばめられている。
悔しいことに、それがこの曲を際立たせているのだ。



「上がれよ」

相変わらず綺麗に片付いた部屋に通される。
モノクロ調でまとめられたシンプルな部屋に、真っ赤なギターが映える。
俺もいい加減片付けないとな……。

「何飲む?」
「いや、お構いなく」
「勘違いすんなよ。今から何時間も歌ってもらう合間に飲むものが何か、聞いてんだからな」

それはツンデレでもなんでもなくマジだった。
2時間半ぶっ通しで同じ曲を歌わされた。しかも、通しで歌うのはほんの数回で、あとはサビとかサビに入る前のフレーズだけとか、壊れたレコードのごとく繰り返し繰り返し……。
穴があくほど楽譜を睨みつけ、弦を叩き切るように掻き鳴らす。



「一人で練習すればいいじゃん」
「楽譜通り弾くためならな」

休憩、と言ってタバコをふかしはじめるハルに、俺はすぐ文句を言った。
けど、返ってきたのは真面目な返事。

「歌うのは多分ヒロになるだろ。あんたのタイミングに合わせる必要がある」
「……それが、真吾に勝つ方法?」
「そもそも負けてねぇよ。ただ、相手の陣地で戦ってるようなもんだからな。そういう不利な状況を打開するために……って、なんでそんなことおまえに言わなきゃいけねぇんだ」

いや……勝手に喋ったあげくキレられても困るんですが。

「お前は気楽でいいよな。ボーカルは取られることないだろ」
「いや……最悪の場合ボーカロイドって線もあるから」


俺にとっては超深刻だったのに。

大爆笑された。

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