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Underdog
12

それから、俺はお言葉に甘えて真吾の家にちょくちょく行くようになった。
何せここには漫画が一切ない。
半日を無駄に過ごすというあの喪失感を味わう原因が取り除かれているのだ。

座布団にあぐらをかいて思案を巡らしていると、昔の文豪みたいな気分にも浸れる。

鶴の恩返しよろしく「覗いちゃイヤン」の貼紙を貼られた隣の部屋からは、カタカタとキーを叩く音がほぼ休むことなく聞こえて来る。
真吾が頑張ってるのに、自分だけ休んだりするのは負けたみたいでしゃくだ。
自分史上ありえないほど長い間机に向かえたと思う。


「ヒロ、ちょっと聞いてんか」

あかずの秘密基地はたまに俺を手招きする。
出来たばかりの曲を聞かせてくれるのだ。
お礼に、書きかけの歌詞を見せる。

「ふーん、『瞳はスタンガン・へたれバージョン』に変貌したなぁ」

いい加減へたれって言葉は聞き飽きたぞ。
でも、ちゃちゃをいれながらも曲を付けてくれる。
まだ仮やけど……と言いながらも、かなり完成度の高いものを聞かせてくる。

「……へたれも掻き消えるくらいのロックだな」
「ええ感じに中和されたやろ」
「中性よりは弱酸性とかの方がいいんじゃない? 何となく」
「ほなレモンでも搾りますか」




そんなこんなで、互いに切磋琢磨しあった結果、俺達の曲が出来上がっていった。

あとは聞いてもらうだけだ。

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あきゅろす。
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