Underdog
2
今から半年ちょっと前。
秋がそろそろ終わるという頃。
俺は――俺達は、小さなライブハウスのステージにいた。
ライトを全身に浴びて、少し汗ばむ体。
シャツの裾であおいで中に風を送る。
でも、一番汗ばんでいたのは多分、マイクスタンドを握った手だった。
観客の怒号のような歓声が耳を通じて頭の中を揺さぶる。
今アドレナリンが出てる瞬間だな。
どうにかなっちゃいそう。
他のことなんてどうでもよくなってく。
この気持ち良さに溺れていきたい。
「ヒロ、次いかなきゃ」
左に立っていたベースの直哉が俺の肩を叩いて我に返った。
今演(や)ったのが最後の一曲。
このバンドで最初に作ったオリジナル曲。
思い出がありすぎで、途中で歌詞がとんだ。
でも、歌詞を覚えてた奴らが歌ってくれた。
次は嗚咽が込み上げてきて歌えなくなった。
完璧すぎるひと時だった。
こつ、とマイクを掴む音がフロアに響く。
ざわめきがさざ波のように引いていった。
「みんな、――」
荒い息遣いも全部、マイクを通して広がっていく。
「今日は本当にありがとう。皆には、感謝してもしきれないっす」
ガバッと頭を下げる。パラパラとした拍手と野次が飛んだ。
満足だよな。
もう一度頭を上げて、フロア全体を見渡した。
今日のことは、きっと一生忘れない。
マイクを掴み直した。
「やりたいことはやり切ったっつーか……」
フロアがざわめく。
大きく息を吸って、一気に言い放つ。
「俺達『クラッドソイル』は、本日この時をもって解散します!」
少しの真空状態の後。
「「「えぇぇーーーっ!?」」」
俺を除く全員が、揃って声をあげた。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!