Underdog
4
「……はよっす」
むっつりした声とともに、茶色いギターケースを持って現れたのは、やっぱりというかあいつだった。
「はい、5分オーバー」
時計をちらっと見て無表情に返してやる。おお、眉間のシワが当社比2倍に。
「もしかして少し迷った? ここってちょっと看板目立たないよね」
すかさず秋栄がフォローを入れる。
来生が素直に小さく頷いた。なんだこの、手負いの獣を手なずけた風の空気。
「秋栄って大人だよなぁ」
「まぁね。多分2歳は上だと思うし」
「え?」
「二浪してるんだ」
マジで年上じゃん!
何馴れ馴れしく下の名前を呼び捨てにしちゃってんだ!
「あんまり気にしないでよ。……へぇ、来生のは赤か」
来生は勝手に準備していた。炎のモチーフが描かれた赤いギター。
人目をひく奴って、何をやってもつい視線を奪われるもんなんだな。
調弦も指慣らしも、そのまま映画のワンシーンになりそうだ。
秋栄、大鳥と目配せする。
いっちょやったれ!
マイペースにコードを押さえている来生を強引に巻き込み、即興演奏が始まった。
例えるなら暗闇を突っ走るジェットコースターみたいな。
生半可な早さじゃない。
気を抜けば振り落とされる。
ヤバい。すっげぇ楽しい。
そんなデッドヒートに終止符を打ったのは、5人目の男。
「自分ら、この程度の腕でよくバンドなんか組めたもんやな」
大河内真吾。
意外と関西弁。
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