Underdog
12
「でも……初対面の人間といきなり組めなんて、……無理がありますよ」
左隣り――来生が口を尖らせた。
同意なんてしたくないけどその通りだ。
俺がどんな覚悟で解散宣言したって思ってんだ。あのあと3日間泣き明かしたんだぞ。
それなのに、この人たちは。
「もちろん給与は保障します。満足いく音楽活動が出来るように、全面的にサポートしていくつもりです。何も心配いらない」
いとも簡単に決心を揺るがす。
「悪くない話ですよね?」
そういえば来生でさえ最初の一言で断れなかった。仮定の話さえしていた。
「……待ってください。そんな、いきなり結論を迫られても、僕らにだって考える時間が必要です」
秋栄がまたも俺達を代弁してくれた。
「そうやってチャンスをのがしてるんですよ」
しかし、相手の方が一枚も二枚も上手だった。
「後で後で……いつまでもチャンスが待っていてくれると思いますか?」
正確に痛いところをついてくる。
ライフポイントがみるみる削られてるんですけど。
「何をそこまで悩む必要があるんです」
突然赤磐さんは語調を和らげた。
「話は至ってシンプルじゃないですか」
後で考えると、典型的な詐欺の手法だ。脅して不安を煽った上で解決案をそっと提示する。
「これからも音楽をやるかやらないか。やりたいかやりたくないか。それだけです」
でも。
そんなふうに聞かれたら。
答えるしかないじゃないか。
「やりたいっす、音楽」
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