Underdog
10
初めての社長室。
大きな窓から辺りを一望できる。応接用のソファとテーブル、仕事用の立派な木の机が、軽く追いかけっこできそうな広い空間に品良く配置されている。
社長は机に向かいながらこっちに笑みを向けていた。
その隣に、なんかやくざの用心棒みたいな雰囲気を漂わせている男の人が立っていた。明るい灰色のスーツにノーネクタイがそう思わせたんだろう。そうであってくれ。
「良く来てくれたね。まずは、座りたまえ」
言われるがまま、おっかなびっくりソファに座る。パイプ椅子に慣れてたから、この柔らかさが逆に居心地悪く感じる。
社長の用心棒が、俺達の前に紙を置いていく。
ちらっと見えたネームタグには、「人材開発チーム チーフマネージャー 赤磐 治郎(あかいわじろう)」とあった。ちゃんとした社員らしい。
クリップでまとめられた紙の束を手にとる。
「『オルウッドセルフプロデューシング戦略』……?」
イマイチ良くわからないタイトルだけど、右上に赤く「社外秘」ってハンコがあるってことはかなり重要な書類ってことだよな。
はいりたてほやほやの俺達に、なんでいきなりそんなもん見せるわけ?
パラパラとめくってみるが、販売実績の棒グラフだとか、何かの金額のかかれた表だとか、数学の教科書みたいな感じだ。
最後のほうに、下線で強調された書体で「新たな/斬新なアプローチを」とあった。
「私の目指すところはそこにかいてある」
つまりこれをちゃんと読めってことか。めんどくさいなー……。
「君達に頼みたいのは一つ」
芝居がかった台詞に、俺達は全員社長の方を向いた。
机に肘をつき、組んだ両手の上にあごを乗せるという、どこかの参謀みたいなポーズのまま、社長は言った。
「この5人でバンドを組んでほしい」
社長の目はキラキラと輝いていた。
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