苦手なもの

※TOS/親子/ほのぼの

自分の父親は自慢ではないが何でも出来る、と思っていた。
と言うよりはやったことのないものでも何でもソツなくこなしてしまうタイプで、特に秀でる訳でもなく。
だから、まだ父親と知らぬうちは自分の唯一の取り柄であった剣の腕でで負けて
悔しかったし、剣の腕は彼が本職だったから仕方ないと諦めるにしても、勉強だって料理だって出来るのだから、もうお手上げ。

自分のような子供と比べるからいけないのだ、とクラトスには言われそうだが、
実際、他の大人と比べても子供である自分から見てもはっきりと判るくらい、それくらいクラトスは見た目も含め、何でも出来そうに見えるのだ。

けれども。
“それ”を見た瞬間、思わずプッと吹いてしまった。

「…何だよ、それ」
「……お前が先程言っていたものだが」

少し前まで、昨日戦った変な魔物を話していた。
だがその魔物の名前が思い出せず、同じ場所にいたクラトスにどんな姿形だったかを尋ね、紙に描いて貰ったのだ。

色鉛筆とかそんなものはない。
宿屋で置かれていた鉛筆を取ってきて、何かの裏紙を渡した。

最初は勢い良く進んだ手も、時間が経つにつれて止まりだして。
最後には眉を八の字にして悩みだしたのだ。
悩む父親が珍しく新鮮だった為、思わず見入ってしまったせいもあって気付けば、目の前に紙が差し出されていたのだ。

だが、そこに描かれたのは…
なんともまあ、言い難い物体。

あのクラトスから想像もできないような…産物に、思わず唖然としてしまう。

「…これ鼻か?頭?」
「角だ」
「えっ」
「…そこは目だ」
「えっ」
「……絵心が無いものでな。済まぬ」

正直に絵心がないと認め、申し訳なさそうにクラトスの顔が俯いた。
そんな父を一瞬だけ可愛いとか思いつつ、苦笑いしながら「いいよ、いいよ」と手を降って答える。

「…あんたにも出来ないものってあるんだな」

何というか意外だった。
でも、何となくそれが嬉しくてつい、にまにまと笑ってしまう。
逆に人間らしいというか、ああ、自分の父親なんだなと実感できるし、人間味の無い彼だったからこそのこと。
まあ、人の欠点で嬉しがるのもどうかとは思うが…

しかし…これは幾ら何でもひどい、としか言いようがない。
まだ自分が描いた方が正確だろうなと思った。
頭はバカだのアホだの言われていても、絵は少しは描ける自信があったから何だか勝ち誇った気分にもなった。
…こんなことで勝ち誇る気分を味わなんて思いもよらなかったけれど。(どうせなら剣の方が良かった!)


「……言い訳するつもりではないのだが」
「ん、何だよ」
「人間は誰しも全てが上手く出来る訳ではないのだ」
「……言い訳じゃん」
「……」


当分の間、クラトスと遭遇した魔物は姿形無きまでに叩きのめされたのは言うまでもない。


***
そしてこの傷を一生忘れない父さんは一生懸命デッサンをし始め(ない
絵心のない父萌えです。そしてきっとロイドは超すげぇデッサンとか家にあるんだぜ!
ヴィーナスとかマルスとかさ、後ろ斜めからマニアックに描いてるんだぜ!
それを見て父咽び泣き!^q^

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あきゅろす。
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