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第三の国
ロックフォールの尽力5


「何だおめえら、知ってたのか!?」


「うん。偶然だけどね……でも、三の宮って確証はなかった」



あけびも、あくまで可能性があるとしか言わなかった。だけど、ペコリーノの話では三の宮で奇妙なうめき声が聞こえ始めたのは、ゴーダがいなくなった時期とちょうど重なるという。





――行きたい。



――――会いたい。





逸る気持ちが前に出過ぎぬよう、必死に唇を噛んで想いを堪えた。


「ちなみに……一応、二の宮や中の丸も調べてもらいましたが、どちらからもうめき声の報せはありませんでした」


ペコリーノの追加報告に二の宮と中の丸担当らしき数人の男が目配せをして答えた。



「――決まりだな。他に目ぼしい場所もねぇ。チェダー、エメンタール。おめえらは後でペコから三の宮までの抜け道を聞け」



「えっ!?ロックフォール!?」

「……行っても、いいのか!?」


ロックフォールの意外な承諾の早さに、俺たちはおっかなびっくりな反応を示した。絶対に反対されると思っていたから。


「お前らは危険だっつっても、昔から聞きやしねぇ!!どうせ止めたって助けに行くんだろう!?だったら、相応の準備を整えろ。間違っても、監視がうじゃうじゃいるような道をバカ正直に突っ込むんじゃねえぞ!!わかったか!?」


俺とエメンタールは互いに顔を見合わせてロックフォールに向かって大きく縦に首を振った。


「さて――――おめえら全員を抜け道使ってわざわざここに集めたのは、何も二人に詫びを入れるためだけじゃねえ」


大部屋に満遍なく視線を走らせ、ロックフォールは熱のこもった神妙な面持ちでそれぞれを見た。



「侵略戦争から参加してる同志たち――おめえ等には随分と待たせちまったな。命を懸けた戦線でのやりとりから五年。愚劣な俺を支え続けてくれたこと、本当に感謝する。有り難う。そして女たち――戦時中は貧困に苦しみ、敗戦後は監視どもの餌にされ、果ては反乱にも参加させられた。癒えぬ傷を負った者も少なくないだろうに、よく耐えてついてきてくれた。リコッタの女は実にたくましい。俺たちの誇りだ」


ロックフォールと同世代の男たちはこれまでの苦労に鼻をすすって涙を流し、女たちは瞳を潤ませながらも凛と胸を張っていた。




「最後に――ここにいる人数は少ないが、次代を担うリコッタの精鋭たち。お前たちの未来を守ってやれなかった事、それだけは今も申し訳なく思ってる」


ロックフォールと目が合うと、彼はしばらくこちらを見詰めていた。そして彼の視線はまた人々の群れへと吸い込まれていった。



「各々が辛く、惨めな日々を送ってきたことは良くわかる。だが、我が身を嘆くのはここまでにしようじゃねえか!!」


腹の底から出したようなロックフォールの力強い言葉に、湿っぽかった大部屋の雰囲気は一転し人々は期待に目を輝かせた。



「武器も揃った!!仲間もいる!!――もう一度だけ、お前等の力を貸して欲しい!!」


手をついて深く頭を下げるロックフォールの頭上に、賛同の声がいくつも飛んだ。


「当然だぜっ!!こんな生活はもうこりごりだ!!」


「あたしらだって力貸すよ!!そのためにへこたれないで頑張ってきたんだ!!」


「ロックフォールさん!!何でも言って下さい。ここにいるのは、あの反乱を生き抜いてあなたについてきた人間ばかりなんだ!!」



「――ああ。取り戻そう、俺たちの国を」


反論ひとつなく結束を固める大部屋のみんなに、ロックフォールがこれまで繋げてきた絆の太さを感じた。高まる士気に、神経が刺激される。



「直に宮殿と塔が完成する。その時やつは必ず現れる!!――――狙うは、天主の命だ」



それは、パニールを奪還するためにロックフォールが出した究極の結論だった。


「終わらせよう。この腐った奴隷制度を――そのためには、女子供関係なくリコッタの奴隷全員の力がいる。――総力戦だ!!」



武者震いのような感覚が全身を包み込んだ。体内を熱い血が巡り、心臓がドクドクと脈を打つ。




―――天主暗殺計画。





残暑の暑さが残るある夏の夜、カゼウスの会はリコッタの奴隷総勢2000人の命を懸けるという大きな大きな決断を下した。









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