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第三の国
ロックフォールの尽力3

ロックフォールの新たな一面と、大部屋の異常な熱気に俺だけが取り残されているような感覚に陥る。


「本当に……よくこれだけの数を集めたもんだ。凄いぜロックフォールは!!確か半分くらいは、二年前の反乱時に持ち込んだんだっけ!?」



えっ――――!?


背後で交わされる男たちの会話に、俺は耳を疑った。



二年前、ロックフォールを先頭に500人の奴隷たちが立ち上がって反乱を起こした。だけどそれは国をひっくり返すにはあまりにも小さすぎる火種で、数日の後にリコッタの監視軍によっていともあっさりと鎮圧された。



そして当時の俺は、あの反乱を起こす事に疑問を抱いていた。



武器も人の数も圧倒的に少なく、こちらの不利は誰の目にも明らかだった。そんな無謀としか言えない行動に、エメンタールは歯に絹を着せぬ言葉でロックフォールを叱責したし、ゴーダは断固として俺たちを反乱に参加させない大人たちの姿勢に、ひどく臍を曲げていた。



俺はというと、『反乱』の決断を下したロックフォールと幹部たちに食ってかかった。沸き上がる怒りを惜し気もなくぶつけ、勝つ見込みのない……ただいたづらに仲間を減らすだけの反乱を止めるよう、強く要求した。だけど皆、そんな俺を見て悲しそうに微笑むだけで――――俺は結局何も出来ずに、死んでいく彼らを泣きながら見送った。



反乱の結果は、500人の内、半数以上の350人が死傷や反乱の罪に問われて命を落とした。でもそれも、和神が俺たちに伝えた大まかな数に過ぎない。実際は、もっと多くの犠牲者が出た。



目を閉じると、死体の山が積み重なり辺り一面が血に染まった当時の光景が浮かんでくる。





俺は頭を揺らして惨劇の記憶を振り払い、体を反転させて男たちの会話に割って入った。



「ごめん。話の腰を折って……ねえ、その話って……」


俺が促す前に、男は俺の意思を汲み取って先を話してくれた。



「ああ。チェダーたちには伝えられてなかったんだよ。あれは謂わば、玉砕覚悟の特攻隊みたいなもんだったからな」


「そうそう。ゴーダ以外にも、どうして参加させてくれないんだって詰め寄ってくる若造も沢山いたんだよ……だけど、十代の奴らは誰一人として反乱には参加出来なかった」



「うん……」


それは事実だ。リコッタで成人として認められる年齢の16才を迎えていても、反乱時の参加条件は20歳以上であることだった。どんなに頼み込もうが抗議をしようが、大人たちがその年齢制限を緩めることはなかった。



一緒に、戦いたかった。



いつまでも子供扱いなんて、しないで欲しかった。



俺たちだって皆を守りたかった。



どれだけ傷を負ったって、構わないから。



一緒に――――。





沈む気持ちが隠せずに、俺は視線を床へと走らせた。


「そんな顔するなよ。何もロックフォールたちは意地悪でお前等をのけ者にした訳じゃないぞ!?若い奴らの中には、次代のロックフォール候補が何人もいる。特にお前ら三人はロックフォールと仲が良いからな……あいつも大きな期待をしてたんだよ」



「そう……だったんだ」


二年前には知らされることのなかったロックフォールの真実が、胸に痛い。



「それにな、あの反乱の勝率の低さなんて兵法に長けてるあいつが一番わかってたさ。……それでも、命と武器を天秤にかけてでも、やり遂げなきゃいけなかったんだよ。――――先にある、お前ら若い者の未来を切り開くためにもな。だからあいつは、いつか必ず訪れるパニール奪還の機会を信じて、その時を万全の体制で迎えるために、反乱を起こしたんだ」



「そしてここにいる俺たち全員は、そんなロックフォールの思いを呑んで反乱に参加した」



「全員!?じゃあまさかここにいるのは――」


俺は暑さに蒸し返る大部屋に集まった人々を見渡した。良く見れば、俺と同じ世代がいない。彼らはロックフォールや幹部たちを労い、大部屋はまだ歓喜に埋め尽くされている。


「そうだ。ここにいる連中はみんな、反乱の生き残りだ。この三年の内に死んじまった奴もいて、数は減ってるがな」


「なあ、チェダー……分かってやって、くれな!?ロックフォールにとっても、反乱は……断腸の思いだったんだ」



二人の男にロックフォールの思いを諭され、なだめられた。彼らの切なすぎる表情に、胸を締め付けるように苦しくなって呼吸が乱れた。



そうだ。


苦しくなかったはずがない。好きであんな決断を下した訳じゃない。



ロックフォールたちにとっても、反乱で死んでいった人たちは仲間だったのだから。



反乱で死んでいった人々。監視に隠れて武器の運搬をしてくれた人々。そして今こうして、生きてその話をしてくれる人々。そうやってパニール中の大人たちが命を懸けて導こうとしてくれた俺たちの未来が、俺にはとても眩しかった。自分の命が、自分一人の物だけではなく何人もの大人たちによって守られてきたのだと――そう改めて実感して胸が詰まった。生きていることが、奇跡のようだった。



「うんっ……うん。わかってる!!」



俺はそう言って首を縦にふることしか出来なかった。



「こらぁ!!お前ら!!余計な事をくっちゃべってんじゃねぇぞ!!」


ドスの利いたロックフォールの渋声が、俺と話していた二人の男に向けられた。角とはいえ、前に陣取った俺たちの会話が聞こえない訳がない。ただでさえロックフォールは地獄耳だ。男たちは肩を震わせて縮こまり、俺は再び前を向いて姿勢を正した。








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