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*26時の銀色猫は空飛ぶクラゲの夢を見るか
◇act.2




『記憶ってのは無くしちまえばそこまでだけど 無理矢理でも思い出せたモンは何処かで何かに繋がったりするらしい』




    act.2  記憶





夜。


月が天井に上がる時間。
繁華街には行き交う人々と、店先には客引きの姿が目立つ。


「お兄サン 今日の予定は?可愛い子揃ってるよ〜」
「オレの店すぐ傍なんだけどさ〜寄ってかない?」
「居酒屋いかがッスか〜」

様々な声のする賑やかなその界隈に、一組の男女。

「今日は楽しかったぁ 付き合ってくれてありがとぉ」
語尾にいちいちハートマークが付きそうな女の言葉に
「どーいたしまして んじゃうちの店でその疲れを癒してってよ」
人懐こそうだがどこか涼しい顔で答えるのは銀髪の男。
腕に絡み付く女をそのままにさせて、もう片方の腕には沢山の紙袋を提げている。
ホストが同伴客の買い物に付き合って来たという風体である。

人混みを進むうち、一人の男が二人に近付き声をかけてきた。

「銀時さん あざっす」
着崩したスーツに派手な髪型の、同じ店のホストのようだ。
銀時と呼ばれた男の方が挨拶を交わす。

「おー おつかれ〜」
「コレから出勤ッスか?いいッスね〜美女連れで」
「まーね 後でな」

そう言って銀時はひらりと手を振ると、女と連れ立って歩き出す。



もう店も目の前という頃。
再び銀時は声をかけられた。

「あれ お前この前の…」

黒いスーツに黒髪の、切れ長の瞳の男。
立ち止まったものの、
「…どちらサンですか?」
見覚えがないと言うふうに銀時は首を傾げる。

「どちらサンってこの前の…覚えてないのか?」
「この前…?」

眉間に皺を寄せ記憶を辿る様子を見て
「…覚えてねぇならいいや 一応無事だったみてぇだし」
じゃあな と彼は行ってしまった。

「あ ちょ…」
「なぁに?知ってる人じゃないの?」

隣の女が不思議そうに覗きこむ。

「ん…多分」
「多分って何よぉ」

ヒドーイ と笑って、人込みに溶けていく後ろ姿を見ながら
「でも結構イイ男だったわねぇ」
ほぅ と女が小さな溜息を吐く。

「あれー 冷たいね」
俺一緒に居るのに〜 と銀時がおどけて言う。
「もぅ 銀ちゃんは別よぉ」


しなを作って腕を掴む女に少し拗ねた風を見せながら、銀時は記憶を手繰っていた。
昔の知り合いでもなし、周りの店の奴でもない。
黒髪の、あの声はどっかで…




「あっ」

グラスに氷を入れながら小さく叫んだ。


「…どうしたの?」

客も一緒にいたホストも何かあったかと振り向く。

「あっ…あーいや なんでもねぇわ」

今は接客中、お客様の前である。
愛想笑いを返して、再び氷を拾いだす。

この前どうにか部屋まで戻っていた夜。
その時は霞がかってよく思い出せなかった。
しかし記憶が、どうやら当事者の相手に会ったことでどうにか手繰り寄せられ、少しずつ甦ってきたのだ。


『アイツ確か…警察っつってたよな…部屋まで送って…』

ポケットを探って玄関まで連れてってくれた事がぼんやり浮かんできた。

『…ってあの時 俺勘違いしてちゅー…』

思い返しながら一人溜息を吐く。
酔って居たとはいえ初対面でやらかした事に我ながら落胆する。

「銀ちゃんどうしたの?さっきから一人で変な顔して…」
「い いや 別に何でも…」

『てっきり高杉と勘違いして…ってアイツに言っても分かるわきゃねぇし』


一人狼狽えてお客に訝しがられるのも困る。
為す術もなく悶々としたまま、その夜は更けていった。








次の日の夜。
土方は繁華街を一人ふらついていた。
追っていた事件にひとまずケリがついて、久しぶりに仕事終わりの一杯をと店を探していた。


「よぉ」

不意に声をかけられ、振り向くと先日の銀髪の男。
明るいグレーのスーツにタイ無しで、開いた襟にはアクセサリーが光る。

「アンタ思い出したわ えーっと…警察のドカタ君だっけ」
「ひじかた だ
じゃねぇか」
「あーそうそう 土方君 この前はどぉも」
口の端をニッと上げ、笑みを浮かべる銀時に
「あぁ まぁ何もなけりゃいいさ」
土方も笑みを返す。
こうしていると先日の…ビルの隙間で倒れていた姿と別人のようだとすら思う。


その後の…マンションの部屋であった事が一瞬過ってほんの少し鼓動が高鳴った。


「あ…と お前仕事は?」

土方が話を変えた。
スーツではあるが会社員とは言い難い風貌に、一応平日ということでそう切り出す。

「今日は休み いつもはあそこの店でホストやってんの」

そう指差した店は、昨日土方が銀時に声をかけた場所のすぐ傍だった。
それを聞いて、ははぁ と土方が一人納得する。
身なりや先日の事に合点がいったようだ。

「ホストね…てことは昨日の連れは」
「そ お店のお客 同伴デートしてきた」

こともなげにいう銀時に、住む世界が違うと息を吐く土方。

「…で?わざわざ呼び止
何か用だったのか?」
「用って程じゃねぇけど…お前今日は?一人?これから暇?」
疑問を疑問で返され、一旦止まって土方が答える。
「ちっと飲みに来ただけだから…暇っつえば暇だが」
「なら丁度いいや 一緒に飲み行こうぜ」
「一緒に?」
「この前保護して貰っちまったし あと…その …まぁあれだわ 迷惑かけたお詫びってコトで」

微妙に言葉を濁したが、先日の礼に飲みに誘うというのだ。
別段断る理由もないので土方が頷く。

「じゃ行くか なにがいい?」
「コレといっては…」
「イタリアン?創作とかも個室のいいとこあるけど」
「いやそんな大したもんじゃなくても…」

オシャレそうなレストランを挙げられはじめ、土方が頭をふる。

「適当な居酒屋かなんかでいいんじゃねぇ」
「そんなんでいいの?」
「十分だろ」
少し悩んで
「おっけー 焼き鳥美味いとこ知ってるからさ」
行こうぜ と、銀時が先に歩き出す。


後について歩きながら、夜の暗さに光るような銀の髪が綺麗だなどとぼんやり考えている自分に気付き、土方があさっての方向に視線を外す。
ホストと言えば見目よくするのが当たり前なのだからそう思うのも普通か、と自分に妙な納得をさせながら、人込みの中店へ向かった。




…to be continue

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