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*26時の銀色猫は空飛ぶクラゲの夢を見るか
◇act.1




『ソレは何のきっかけなのか。厄介事?それとも…』




    act1.拾い物




――かぶき町。

決して治安が良いとは言えないこの街の夜は明るい。
ひしめき合う建物は競うように派手なネオンライトを飾り、その光は道を照らし、人を照らす。


その建物と建物との間、明るすぎる街が作り出す漆黒に、一つの光。


「…ん?」


その光に歩みを止めたのは一人の男。
黒い髪に黒いスーツを着たその男は、鋭い双眸を細めそれに近付いた。

「…ヤローか」

光に見えたのはビルの谷間に座り込み項垂れた男の髪だった。
銀色のそれは、染色や脱色とは思えない綺麗な色をしている。
暗闇に彼の髪だけ浮き上がって、光のように見えていた。

ぴくりとも動かないのが少し気になって、声をかけてみる。

「おい 生きてんのか?」
「… ん」

とりあえずは反応するので生きてはいるらしい。
ただし動こうとする気配はない。

闇に慣れてきた眼でよくよく見ると、薄茶色のスーツの色々な所に黒い飛沫が飛んでいる。
関わらない方がいいように見えるが、損な性分なのか黒いスーツの男は更に話しかけた。

「お前こんなとこ座り込んでちゃ危ねぇぞ 聞こえるか?」
「…ん 聞こえ る」
「立てれば立て ほら」

男が腕を引くと、どうにかよろよろと立ち上がった。

「お前この辺のか?家まで帰れないんなら保護するぜ?」
「…ほご?」
「生憎布団も何もない留置所だがな 道端よりは安全だ」
「…何? ポリ公?あんた」

そう聞かれ、黒スーツの男は胸ポケットから手帳を出した。

「一応警察のモンだ」
「本物? それ」
「当たり前だ」

手帳には警察の制服をぴしっと着こんだ男の写真。
その下に名前が記してある。

「…何て読むの?どかた?」
「"ひじかた"だ」
「あーはいはい 土方サンね」

黒いスーツの――土方は少し呆れながらもまだふらつく彼の肩を捕まえる。

「ほら しっかり歩けよ」
「あのさ 牢屋よりウチのが近いから 俺帰る」
「あぁ?大丈夫か?」
「うん …多分 じゃ」

そう言って一人歩き出したが、彼の足取りはやはり危うい。
土方は溜息を吐いて歩み寄った。

「近ぇんなら送ってやるから どっちだ?」
「んと…」

銀髪の彼はたどたどしくも道を示し、どうにかあるマンションの前にたどり着くことが出来た。

「ここか?」
「…そー 5階の端の…」
「しょうがねぇな」

結局、土方は部屋まで送り届けることになった。
彼のポケットから鍵を探し、ドアを開ける。

「ほら 着いたぞ 後はちゃんと…」
「んー…」

玄関に寝かせようとすると、銀髪の彼が土方の襟を掴んだ。

「何…っ」
「ん…」

そのまま土方は口を吸われた。

突然の事に意識が追い付かず、たじろいでいる土方に、彼は更に口付けを深くする。

「ちょ…待てっ 何する…」
「何って… お礼的な?」

ふと彼が土方の方を向き、その時になってやっと顔を見た。
初めて合わせた彼の眼の、妖しい艶かしさにぞくりと土方の背中に何かが走る。

「お…礼 じゃねぇよ やめろ」

どうにか彼を引き剥がし、土方は慌てて部屋を出る。

エレベーターに乗り1階へのボタンを押して壁に寄りかかる。
少し上がった息と、危うく反応しかけた下半身に思考はぐるぐる回る。

「なんだったんだ…?」

落ち着こうと息を整えると仄かに鉄錆の匂いがする。
舌で探っても口腔内に傷は付いていないようだ。
恐らく、口付けられた時相手の口許から移ったのだろう。

「…あいつ服にも血付いてたし…何しでかしたんだか」


元々治安の良くない街の事。
想像に難くない気もするがやはり少しは気になる。
しかしとりあえずは家まで送り届けたのだ。
後はどうにかなるだろうと思い直し、土方はエントランス階に着いたエレベーターを降りてマンションを後にした。







空が白んで、暗い部屋にも日の光が入り始める頃。
薄ぼんやりと室内の様子が浮かび上がっていく。

その部屋のドアが開き、入って来た人影は慣れた手つきで玄関の電気を点ける。


「… お前 また」

明るくなった玄関に居たのは銀髪の彼。
電気を点けた人物は、フローリングに転がっている彼を足で軽く蹴飛ばし、仰向けにさせる。

「おい銀時 んなとこで潰れてんじゃねぇよ邪魔だ」
「…ん」

名を呼ばれ、銀髪の彼―銀時が返事する。

「…あれぇ 高杉今帰った?」
「あぁ」
「…俺家まで連れて一回帰らなかった?」
「いンや …お前また知らない奴引っ掛けて帰って来たな?」
「……」

銀時はぼんやり記憶を辿った。
黒髪の男に肩を借りて帰って来たのはぼんやり覚えてはいるけれど…その先は霞がかかった様に上手く思い出せない。


「変なことされてねぇだろうな?」
「多分… あー」
そういえばキスしたような気が…
「されては…いない」
「…したのか?」
「…かも」

お見通しとばかりに高杉に鋭く指摘され、銀時は視線を泳がせる。

「ったく 誰でも彼でも手を出すな」
「誰でもって…黒髪だっからテメェとちょっと間違えたんだよ」
「間違え ねぇ…」

寝転んだままの銀時の腹に高杉が少し乱暴に座る。

「ぐっ… テメ」
「で?この血はどうした?」

ぐいっと腕を捕まれ、スーツの袖に着いた血痕を示される。

「あ?…えーと」

やはり霞がかかった記憶を無理矢理探ると、路地裏での記憶がよみがえってきた。

「確か…あの辺の店の奴だったと思うけど 酔ってた所に因縁吹っ掛けられて」
「怪我はねェのか?」
「体痛くねぇから 多分コレほとんど返り血」

改めて袖の汚れを見て あーぁ とか行ってる銀時の、口元に固まった血を高杉が引っ掻いた。

「っ…」
「ちったぁ殴られてんじゃねーか 鈍くせェ」
「うっせ…」

いいかけた所へ口付け、固まった血を丁寧に舐めあげる。

「唇切れてんな」
「あんまソコばっか舐めんな 痛ぇ…」

静かな部屋に、ちゅ ちゅと水音だけが響く。

舐め終えると満足したのか、やっと高杉が銀時の上から退いた。

「早く風呂いってこい つーか腹減った」
「へいへい 何か作るよ」

反動を付けて起き上がり、銀時はようやく立ち上がる。
汚れたスーツを脱ぎ、風呂の扉を開けた。




…to be continue








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