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○たまには未来の話をしようか[土銀]
もうすっかり来ることに慣れてしまった。
自分の家でもないのに。
申し訳程度に呼び鈴を鳴らし、土方は玄関の引戸を開けた。




    +たまには未来の話をしょうか+




「よぉ」

万事屋の玄関を入り、廊下の先。
応接間兼事務所の奥に置かれた、ずっと変わらない事務机。
その椅子に深く腰かけたまま
「土方くんか」
僅かにそちらを見るも、勝手に入って来たことを気にする様子もなく万事屋―銀時が返事をした。




「早ぇモンだな」

土方がしみじみと言う。

初めて逢って、初めてこの部屋に来た頃から随分と経って。
多少の模様替えと時間と。
それらがゆっくり、少しずつ部屋の様相を変えてきた。


ただ、今のこの部屋は、以前と大きく変わっていた。


物ではない。
何か違和感――空間そのものが違っている気がする。


「――ひと月くれぇ経ったか」
「そうだな」

銀時は ほぅ と息を吐いて
「アイツらが居なくなって まだそんなもんか」

椅子に座り直した。







万事屋には二人の助手が居た。


今、万事屋には銀時独り。


それが違和感の理由であろう。



あまり依頼の来なかった万事屋も、時が経ちそれなりに仕事も増えて。
万事屋が安定していくのと共に、新八、神楽とも成長していたのだ。






―ふた月程前。
気怠い昼下がりに
「話があります」
切り出したのは新八だった。

顔にはまだ幼さが残っているが、出会った頃より背が伸び、体格も大きくなった。
その彼が、重く口を開く。

「銀さん お願いがあるんです」

寝転がってジャンプを読んでいた銀時は、そちらを向かずに口を開く。

「賃金値上げ交渉ならちょっと受け付けらんね…」
「…お暇を 下さい」
「…――最近忙しかったからなぁ 今日は依頼もないし 暇だしゆっくりして…」
「銀さん…」

銀時はジャンプを広げたまま、視線だけで新八を見やった。

銀時も意味くらい分かっていた。
万事屋を辞めたい、と言われたのだと。
ただ、理由もなく辞めると言うのはないだろう。
訳を聞こうと身体を起こした所で、先に新八が話し出した。

真剣な表情で新八は、道場再興の目処が立ったこと、その為に名のある道場に修行として稽古に出ようと考えているのだと言う。

黙って聞いていた銀時は
「そうか」
とだけ答えた。




その数日後。
夕飯を終え、テレビを見ていると、向かいのソファで神楽が

「銀ちゃん…」

神妙な面持ちで話を切り出した。

「…パピーから手紙が来たネ」
「まだ生きてたかあのハゲ」
「うん…それでね…」

その手紙の内容は何時もと違って。
えいりあんハンターとして手伝いに来ないかという内容だったという。
宇宙最強と言われた宇宙坊主もいい年齢になって、後進の育成にも力を入れ始めたといった所なのだろう。


「私万事屋好きネ でもえいりあんハンターになるのもずっと夢だったネ…」
「…で?」
「どうしよう…銀ちゃん」

膝を抱える神楽に

「決めるのは俺じゃねぇだろ」

そう言って、銀時は優しくその頭を撫でた。






ひと月程前。
二人は揃って万事屋を後にすると言った。

事務机の椅子に座ったまま
「いいんじゃねぇの 自分達の決めたことなら」

そう銀時が言うと

「そう言われると思ってましたよ」

新八が呆れたような、少し寂しそうな顔をした。

「銀ちゃん…平気アル?」
心配そうな神楽に
「お前俺を幾つだと思ってんの?平気に決まってんだろ」

いつもの笑みで返した。

「さて んじゃお前らの門出を祝して飯でも行くか」
「銀さん…」
「但しババァんとこな 今月金欠でよ」
「…やっぱり心配アルな」

神楽がやっと笑った。




それから。
一階のお登勢の店に行き、食事をした。
銀時がお登勢に小声で二人の事を話すと、一瞬驚いた表情を浮かべたが
「そうかい…」
柔らかく笑い、
「じゃあコイツはサービスだ」
料理を追加してくれた。

夜も更けてそろそろお開き となった時、
「ちょっと」
と 銀時が二人を呼んだ。

万事屋に戻り、応接間の事務机の前まで行くと、くるりと新八達に向き直り机に寄りかかって言った。

「俺から…餞別って何かやりてぇけど 相変わらずすかんぴんでな …だから」
ぐるりと部屋を見渡し
「何でも好きなもん持ってっていいぞ」
二人に向き直って いつも通り笑った。

多分笑えたつもりだ。





「……」



そして。

万事屋は静かになった。

まるで火の消えたようだと銀時は思う。
依頼はそれなりにこなしていたが、空いた日は一人の時間が長く感じるようになった。

「なんだ?寂しいか?」
「うっせ」

銀時がそっぽを向く。

「アイツらは 何を欲しいっつったんだ?」

そう言えば聞いてなかった。
土方が問う。

「あー… それな」



あの日。
好きな物を、と言った日。

新八は、木刀を。
神楽は、着物を。

「銀さんと」
「銀ちゃんと」

「いつも 一緒に居たい」
と。




「不思議なモンだよな 未来は変わった筈なのにな…同じモン持ってったぜ」

考える事は変わんねぇんだな。
銀時は、思い返しながら苦く笑う。

「お前の前に言ってた…呪われた未来での事か?」

土方は話に聞いただけだったが、数年前、銀時は未来へタイムスリップをしたと言う。
可笑しな事を、と思ったが、コイツならあり得ない話ではないと頭の隅に残っていた。

答える変わりに椅子をぎぃと鳴らし、銀時は空を見上げる。
雲一つ無い青空。
白詛が蔓延しなかった平和な未来だ。


「…そうか」

土方はそれを見ながら、呟く様に言った。



「一人だと張り合いねぇだろ」

ぽつりと土方が言う。

「元の万事屋に戻っただけだ」
一人だったその頃に。

そう言いながらも顔を背けたままの銀時に
「何で髪伸ばしたんだ?」
唐突に土方が問う。

元々天然パーマの入った銀の髪は、ふわりと襟にかかる程度ではあったが、最近は紐で括る程に伸びていた。

「… 何で土方くんは髪型変えたの?」

質問を質問で返され、土方が口を噤む。

「…なんとなくだ」

真選組が発足されて数年。
段々と土方の立場も変わってきた。

制服のデザインも新しくなり隊員も増えて。
部下の手前少しは貫禄を出そうと前髪を上げるようになったのだ。

ただし…その理由を言えば銀時に誂われるだろうと敢えて言わなかったのだが。

「ふーん…どーせ偉そうに見えるとかそんなとこだろ」
「……」

しっかりばれてはいる。

「…そーいうてめぇはどうなんだよ」
ムスッとしたまま聞き返すと
「んー なんとなく?」
うやむやに返された。
「ンだよそれ」
呆れる土方を他所に、銀時はわらう。

床屋に行くのが面倒とか適当な答えを言ってもいいのだろうが、銀時も敢えて言わないでいた。
髪を伸ばしたのには銀時なりの拘りがあったのだ。

あと一年ちょっともすれば滅んでいた筈の世界で。
何か目に見える変化を欲しがっただけのことで。

この世界は、まだ続いているのだと。



「まぁしかし 大将一人残されちまって」
土方が銀時の正面に回り、
「守りも薄くなったってとこか」
ふ と不敵な笑いを浮かべる。

「なら どーした」

ようやく土方の方を向いた銀時を見つめ

「そろそろ俺も 王手かけに来るかな」

そう言った。




ぷっ と銀時が吹き出す。

「王手ねぇ…」
「…何だよ」

土方にとってはそれなりに勇気のいる告白だったのだが。
笑われてムッとした顔で銀時を睨む。

「歩兵ごときがよく言うじゃねーの」
「…俺ぁ歩兵かよ」

今や警察内でも一目置かれる程の組織になった真選組の、幹部を捕まえて歩兵とは随分な物言いだと、土方は怒るより笑い出した。

敵わねぇなぁ と。
地位も役職すらも。
惚れた弱味の前では無意味である。


「不服?」
にまり と笑う銀時に
「なら 金なりしてでも王手差してやらぁ」
負けずに言い返すと、珍しく銀時は後追いせず、変わりに何とも言えない顔で目を泳がせる。

「…あ そぅ」

素っ気なく答えながらも、声が上擦っている。
柄にもなく照れているらしい。

「で? 王手かけるってどーすんの?」

平静を装いながらも、銀時の頬がほんのり赤い。

「それは…」

そう聞かれると思っていなかったのか、土方がバツ悪そうに考えこむ。

ったく…と
「詰めが甘ェなぁ」
銀時が呆れたように笑い
「まぁ ゆっくり考えりゃいいさ」

土方の頬に手を伸ばした。



xxx





劇場版銀魂からの未来話でした。
年明けから地上波やたー…って実は劇場版公開後のスパコミで無料配布で出してました漫画をテキストに直してみたのです。
かなり前から書き出しては居たのですが遅々として進まず…ぅぅ。

今年もどうぞよろしくお願いいたします。

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