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▼Text
○月明ノ宿 [土銀]
「晴れたな」
「だな」

いつもより明るい空を見上げた。






     +月明ノ宿+




逢う約束をした。


仕事を終えて夕方の街をあの場所へ向かう。
ぷらぷらと、少し雲行きが怪しいなとか思いながら歩いていると
「そこのオニーサン」
聞き慣れた声に呼ばれた。
振り向くと

「怖い顔してどこいくの?」

やっぱり。

「お前んトコだ万事屋 あと怖い顔は余計だ」
「あー土方くんは元々だったね 悪ィ」
「…更にムカつくんだけど」
ひくりと片眉を上げる。

…言い合っても仕様がない…と話を変えることにする。
万事屋の両手に提げている買い物袋に目を落とした。

「買い物か?」
「あ…うん 今日神楽いねぇし 家で何か作ってやろうと思って」

誰かさんにな と付け加えられる。
遠回しな物言いだが、その相手が自分と思うとこそばゆい。

「一つ持ってやるよ」
「いいの?」
「食う前に少しくらい奉仕しとかねぇと」
「いい心がけじゃん」

ヤツがふと見せる笑みににやけそうな口許を引き締めて。
買い物袋を受け取り、並んで万事屋へ向かい歩き出した。



と、




ぽつり。



「あ」

つい声が出たが時は遅く。
怪しかった雲行きの、決定打が落ちてきた。
「うわ 降ってきた」
「急ぐぞ」

すぐに周りが見えなくなる程の豪雨。
気休め程度に手で頭を隠しながら、勢いのある大粒の雨の中を走る。

ばしゃばしゃと蹴った水で足はびしょ濡れになった。







「あークソ 急に来やがった」
「お前が出掛ける頃はもうヤバそうだっただろ 傘持って出ろよ」
「帰るまで平気だと思ったんだよ つか土方こそ」

突然の雨に二人ともびしょ濡れで、不毛な事を言い合って。
玄関を上がろうとすると
「ちょっとそこで待ってろ」
濡れたまま上がるな と言い残して 、万事屋は自分も濡れた足をつま先立ちにして廊下を歩き風呂場へ向かう。
タオルを持ってくると、俺に渡してきた。

「先に風呂だな 足拭いて上がれよ」

そう言う自分は足はもう拭いたらしく、頭にタオルを被っている。

「お前は?」
「飯の仕度すっから お前出たら俺も風呂入る」
「一緒でいいじゃねぇか」
「狭いからヤダ」
「風邪ひくぞ」
「土方君やらしーからヤダ」

当たり前だろ は飲み込んで。

「ほら 入っちまうぞ」

腕を掴んで風呂場へ向かう。

「ちょ…人の話… ったく」

諦めたらしく、万事屋は引かれるまま一緒に風呂場へ付いてきた。







「だーからやだっつったんだよ」

部屋着姿で台所に立つ万事屋が膨れっ面を見せた。

水に濡れた、艶の増したヤツの肢体に反応しないとか無理な話で。
風呂場でしっかりスロットルが入り…やや長風呂してしまった。
借りた浴衣がまだ火照っている肌に貼り付く。

「まー…体は温まったろ」
「…違う所が冷めるかもだけどなー」
「…」

台所の入口に寄り掛かって、言葉を探していると

「もー少しで出来っから 先座ってろ」

フライパンを動かしながら万事屋が言う。

「おー…」

話しかけるタイミングを折られて仕方なく居間に戻る。
ソファに腰掛けていると、程無く万事屋が戻ってきた。

「ほい お待っとさん」

料理の盛られた皿が並べられる。
何となく顔色を伺うが、そんなに機嫌が悪いようでもなく。

「お疲れさん」

缶ビールを持ち上げて、乾杯の仕草をされる。
「…あぁ」

缶を軽くぶつけて、いただきます と答えて。
二人だけの夕食が始まる。
他愛ない話をしながら。
いつも大勢の中にいると、たまには静かなのもいいもんだ。
そんなことを思いながら缶ビールに口を付けると
「今日は月綺麗だな」
外を眺めながら奴が言う。

格子窓の外、夜でも明るい繁華街の空。
夕立を連れてきた雲はすっかり何処かへ行ってしまって、ネオンの光に負けない程の明るい月がぽっかり浮かんでいた。

「晴れたなぁ 今夜は満月か」
「うん なぁ」

何か思い付いたのか万事屋がこちらを向く。
「隣の部屋行かねぇ?あっちのが月見やすいし」
「そうだな」

たまには良いこと言うなとか口には出さずに。

「じゃ卓袱台出しとくから 飯持ってこいよ」
「へいへい」

のそりと立ち上がって、皿を持って。
和室に移動する。

「電気点けねぇ方がいいかな」
「そうかも」

投げてよこされた座布団の上に胡座をかいて、障子を開ける。
部屋の中を月明かりが満たす。


「そういや神楽がさ」

ことり と卓袱台の上に、自分達の分ではないグラスを置いた。
水の入ったそこに、活けてあるのは薄。

「お妙に土産だって摘んできて お裾分けだってよ」

チャイナが置いていったものらしい。

「枯らしちまうのも何だし 水切して置いといたんだよ 月見にゃお誂え向きだろ」
ふ と軽く笑う銀時に
「上等じゃねぇの」
つられて笑って。

夏とは違う乾いた風が薄を揺らす。
大分涼しくなったそれが心地よい。


「これで団子でもあればなー あ ビールきれた」

万事屋が隣で缶を開いた口の上で逆さにし、最後の一滴を飲み干して ふぅ と息をつく。

「酒にするかな 土方くんは?」
「じゃあ俺も」
「冷?燗?」
「燗で」

一人残されて、あいつの座っていた座布団に手を置く。
残った温もりが妙に愛しく。



暫く経って、徳利と猪口を二つずつ持って戻ってきた。

「あ ち ちち」

ことん と徳利を置いて、その指で耳朶を掴む。

「ちっと熱かったかも」
「だな ん」

徳利を持ち上げて促す。
万事屋が猪口を持って「どーも」と酌を受ける。

「お前も」
「おぅ」

とくとくと注がれた酒に月が反射する。

「なぁ」
「ん?」

薄を一本手にとって、短く折って万事屋の髪に差してやる。

「なに?」
「似合いそうだと思って」
「どぅ?」
「いいんじゃねぇ 軽そうな頭にそっくりで」
「あーそー」

可愛くねー とにやけた顔で言われる。

「まぁ銀さん何でも似合っちゃうから」
「自画自賛かよ」
「お前が差したんだからお前がそう言ったようなもんだろ」

にんまりと笑って向けられる視線に、ふ と笑い返す。
コイツには敵わねぇよな。

「もう一杯どう?」
「あぁ」

注がれた酒を飲み干して。

「悪くねぇよな」

呟く。
どうした?という顔で此方を見る万事屋に
「お前の作った飯食って 月見ながら酒飲んで」
「どしたの土方くん 酔っぱらった?」
「そうかも」

ごろり
万事屋の膝に寝転んだ。

「重ぇぞー つかオッサンの膝枕かよ」
「いいだろ 少しくれぇ」
「ったく… 寝心地悪いだろ」
「そうでもねぇさ」

布越しに温もりが伝わってくる。
頭を動かすと くすぐったい と軽く叩かれた。


「…さっきは 悪かったな 風呂で」
「あー…一緒に風呂入った時点で諦めてたし?土方くん元気だなーって」
「……」
「あんまり必死だったから流されちまったんだけどさ」

ふわりと撫でられ、仰向けになる。

「…銀時」
「ん?」

微笑んだ万事屋の、銀の髪を、差した薄を月の光が照らす。
ぴかり ぴかりと輪郭が光るのを見て
「綺麗だなぁ…」
呟く。


「…?何か言った?」

聞き取れなかったらしく聞き返してきたのだけど。

ダメだ。
瞼が重い。


どうやら酔っぱらったみたいだ。


ひどく心地よい微睡みに落ちていく。



「土方くーん」

何度か呼んでみるが、動かないのを見て
「寝ちまったのか …しょーがないヤツ」
苦笑しながら銀時は、土方の髪を撫でた。




xxx



ちょっとあまあまな…しっとり目指してみたり。
とある懐メロを元にしてみました。…いや、わかりづらいと思いますが(吉田○郎)
エロじゃない色気って難しいです…


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あきゅろす。
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