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○ヨコシマ想イ [坂→銀]






    +ヨコシマ想イ+




―攘夷戦争の只中。
暫く野営が続き、皆に疲労の色が見え始めていた。


「…一度態勢の立て直しの時期だな」
高杉の発言に
「そうだな」
「辰馬は?」
「異議なしじゃ」
勿論賛成して。
休息も兼ねてどこか適当な仮宿を探すことになった。


大きな部隊ではないもののそこそこ人数は居る。
それなりの場所が必要と、数人が先に交渉に向かう。
皆支度を整え、彼らが戻るのを待ち夜が明けぬ内に移動を始めた。

日が昇った頃ようやく到着したのは小さな村。
そこで一軒の空き家を提供してもらえた。

「やぁ お疲れさん」

そこの管理人だという爺さんが出迎えてくれる。

「中は好きに使っていいよ まぁガタ来とるからあまり暴れなさんな」

そう言って入れてくれた家は、古かったが中は広く、幾らかの家具が残されていた。
そして何より久しぶりに屋根のある、畳のある場所が有難かった。

「やれ 一息じゃの」

装備を解き、腰を降ろす。
順番に風呂を使おうと湯が沸くのを待つのにちょっとの横になった…つもりが。
どうやらすっかり寝てしまったらしい。
目を覚ますと他の皆は身綺麗になっていて、泥の様に眠っていた。


朝から移動していたのもあって、まだ昼下りといった時間。
ひどく喉が渇いていて、台所へ向かう。
水瓶を覗いてみても、当たり前だが中は空で、仕方なく井戸のある庭に向かう。




「お 辰馬起きたん?」

先にそこに居たのは銀時。

「おぉ なんじゃ寝こけてしもうた」

既に湯を使ったらしく、さっぱりした姿の銀時は井戸から水を汲んでいる。

「ならさっさと風呂入って来いよ んで暇なら買い出し手伝え」
「買い出し?」
「腹減ったろ?何もねぇから日が暮れる前に食い物買ってこいって高杉が」
「あぁ… そうじゃの」

言われて、喉の渇きと別に空腹を思い出す。

「お前は休まんで平気がか?」
「さっきまで寝てたさ お前が寝過ぎなんだよ」

ったく と笑う。
それを突っ立ったままぼーっと見ていると、銀時が此方を見て

「風呂行かねぇの?」

少し首を傾げて聞いてきた。

「あ おぅ …っとその前に水をくれんかの」

目的を思い出して井戸に寄る。
喉を通る水の冷たさに、ぼんやりしていた頭が起きていく。

「ごっそさん じゃ 一っ風呂浴びて来ゆうわ



明るい日の光と庭を抜ける風と。
昨日までとまったく違う長閑な空気。
土埃に汚れた自分の姿が異質に見える光景に小さく溜息を吐いた。



風呂から揚がり、髪を拭きながら縁側に座る銀時に声をかけた。

「待たせたの」
「ん じゃ行くか」

立ち上がると、彼は高杉のいる部屋に向かった。


「高杉〜 じゃあ行ってくるわ」

声をかけられ、顔を上げた高杉がこちらを向く。

「あぁ …辰馬とか?」
「暇だから荷物持ち来るって」
「…そうか」

饅頭も買っていい?とか聞く銀時に、呆れた様な、なのに慈しむ様な顔をして高杉は財布を渡す。
そしてちらりと此方を見た。
その視線に、ほんのり何か―敵意に似たものが混じっていたような気がした。




村から少し行くと、小さな町があった。

沢山の人が行き交い、店が出ている。
そこで野菜やら米やら酒やら…しっかり饅頭も買って家路に着いたのは、日も沈み始めた頃。


「やっぱ連れて来て正解だったな」
「ははは 力仕事なら構わんぜよ」

夕焼けの田舎道を、機嫌のいい銀時と並んで歩く。

ふと、銀時の方を見て思う。
戦場での彼はもっと大きく見える気がするのに、今はそんなことはなく。
華奢ではないが、少年ぽさの残る細っこいその体は、自分よりも小さい。
白い肌にふわりふわりとかかる髪は、暮れる日の色に光っている。
それがただ単純に綺麗で、そちらを向いたまま言った。

「金時はホント白いの〜」
「そうか?つーか名前…」
「白夜叉とはよく言ったもんじゃ」
「…もーいいや」


呆れた様にそっぽを向く銀時の、白い首筋に目が止まる。
筋ばった、しかし滑らかなそこに背中にざわりと何かが走った。

「……」
「…辰馬?」

名を呼ばれて咄嗟に視線を外す。

「あ…おぉ」
「どうしたん?」
「何でも無いきに 急がんと真っ暗になっちゅう」

誤魔化すように先を歩きながら、さっきの感覚の理由を探す。
ずっと女日照だったのがキてるのか、ただ疲れてるだけ か…




帰りつき、炊事番の奴らに買ってきた食材を渡す。
暫くして食事の支度が整うと、豪華ではないが皆での夕食が始まった。

酒が入ると更に場は賑やかになって、そこここで久しぶりに笑い声が上がりだす。

「お〜 高杉ぃ飲んじょるか〜?」
近くに座っていた高杉に、酌でもしようと徳利を持ちあげる。

「テメェもう酔ってんのか」
「まぁだまだよ」

かかっと笑うと、程々にしとけよと苦笑し器を差し出す。
買い出しの前の事が少し気になったが、今の高杉はいつもと変わらぬ様子だった。

思い過ごしか と、酌ついでに桂にも声をかける。

「ヅラもどうじゃ 一杯」
「あぁ」
「あんまし飲ますなよ コイツ煩いから」

桂の隣から銀時が口を挟む。

「煩いとはなんだ 銀時」
「だってヅラ煩いじゃん 若年寄が」
「失敬な あとヅラって呼ぶなと言っとるだろう」
「ははっ まぁ二人ともその辺で ほれ金時も」
「…金じゃなくて銀だっての」

宥めるとしっかり訂正だけはして、銀時も注がれた酒に口を付けた。




「ふー」

ぱたりと厠の扉を閉める。

この家の厠は外にあり、周りに木が茂っていて暗い。
来るとき持って来た明かりは心許なく、どうにも不気味だとか思いながら顔を上げた。



そこから見えた先―
庭の方に白いものが浮かんでいた。


「…っ」


それはそのままこっちへ向かって来る。
もしや…鬼火とか…
背筋に薄ら寒いモノが流れる。


「… 出っ…」


「あり?辰馬?」

「…ん?…」

白いものは近付きながら名を呼んで来た。

「… なんじゃ 金時か」


近付いて、見えたのは銀時の姿。
銀の髪が月明かりで闇に浮かんでいただけ。
正体がわかってほっと胸を撫で下ろした。

「なんだって何だよ」
「いーやぁ〜 お前の事お化けと見間違いよう」
「だらしねぇなぁ辰馬〜つか酔いすぎじゃね?」
けらけらと笑う銀時に

「…そういうお前…隣…」

す と横辺りを指差すと、物凄い勢いでこっちに跳んで来た。


「…何? …何だって?」
「あっはっは 金時だってびびっちょうが〜」
「…辰馬 テメェ」

騙しやがったな と怒る銀時の頭をぽんぽんと撫でる。
怒りながらも、その手は人の袖を掴んだまま。

「天下の白夜叉がこがー怖がりとはのぉ」
「うるせーよ 怖いモンは怖いんだよ」

そういって拗ねて尖らせた銀時の―唇に目が止まった。


「…可愛いらしのぉ」
「あぁ?まだ言うかこの…」
「いんやぁ 違うよ」

その肩を捕まえる
何かが下腹にふつりと沸き上がる。

「何だよ辰馬…」
「なんじゃ そーか」

買い出しに行った時感じたのも、今も

「銀時 お前随分色っぽくなったんじゃーないがか?」
「はぁ?何言っ…」
言いかける唇を軽く啄む。
「やらかい唇じゃの〜」
「ちょっ…待て待て」

銀時がぐいぐいと押し返してくる。

「…お前やっぱ酔ってんの?」
「そうじゃの〜」

逃げようとする銀時の腰に手を回した。

「ワシゃ酔っちょるようじゃき …どうじゃ?酔っ払いの悪戯に付き合ってみんか?」
「ふざけっ…離せボケェ」

腕の中で暴れるが、力なら負けはしない。

「のう銀時 誰かええ奴でもおるんか?」
「…っ」
「色気が出たのはそいつのせいかのぅ なぁ」

するすると腰をなぞる。

「…っ やめっ」
「ん〜?…あぁそうそう」
身を捩る銀時の耳にわざと近付き


「…さっきこじゃんとたまげたんでの 酔いがふっ飛んでもうたちや」

囁くと、びくりと銀時の体が跳ねた。








「そこまでだ」

かしゃ と刀の音と聞き知った声。

暗がりから、目の前に付き出された鞘に収めたままの刀。
先をたどれば居たのは高杉。

「酔っ払いだからって人のモンに手ェ出すなよ?辰馬」

ふざけた様に言うが、ちらりと見えた目は笑っていない。
その息は少し上がっていた。


「…ははは 冗談じゃき たまげかされた仕返しじゃー」

笑って銀時の体から手を離す。

「ワシは戻るきに 安心しぃ 何もしちょらん」
「は?ちょ…辰馬 ってか高杉っ?何で…」

銀時の声と、いつもより三割増の高杉の殺気を背中に感じながらその場を離れた。





「アホだな」

次の日、桂にこっそり聞いてみるとさっくりそう言われた。
寝て起きて冷静になって、悪ふざけが過ぎたかと反省して…この様だ。


「ヅラは知っとったがが?」
「ヅラじゃない桂だ 云われずとも見ていれば薄々分かるだろう」
「そうかの〜?」
「…まぁ 俺は奴等とは長い付き合いだから気付いたのもあるかも知れないが」

はぁ と溜息を吐いて

「あまり邪魔してやるな 高杉はアレで奴を大事にしてはいるようだから」
「…そうじゃの」

昨晩の高杉の様子を思い出す。
…斬り捨てられなかったのは運が良かったのかもしれない。

「…じゃが ヅラが一番こーいうのは煩いと思ったがのぅ 不純じゃーとか」
「そうなってしまってるなら仕方なかろう それに」
少し笑って
「高杉が誰かに執着する事で 自身も大事にしてくれるならそれで構わん 銀時も然りだ」

桂は桂なりに二人を見ているということなんだろう。

「…ほーじゃな」
「おーいヅラぁ」

そこへ廊下からひょこっと銀時が顔を見せた。

「高杉が何か用あるって…よ」

一緒にいた自分に気付き、銀時が軽く退く。

「あぁ 今行く」

桂が行き、二人その場に残される。
そのまま銀時も行こうとしたので
「金時っその…」
呼び止め、立ち上がった。


「昨日はその…すまなかったの」
「…別に …酔ってたって事で許してやらぁ」

そう言う銀時は、少し眠そうで。

「昨日は…あの後…」
平気だったかと聞く前に
「お陰様で寝不足ですぅ」
軽く睨まれた。
欠伸をしながら首筋を掻く銀時の少し開いた襟元に、小さく鬱血の跡が見える。
高杉の所有印…てとこだろう。

「あー… すまんのぉ…」
「もーいーよ ま…今度新作の菓子でも買ってこいや」
「おっ おう」

ぶんぶんと首を縦に振ると、やっと銀時が笑ってくれた。


「…誰にも言うんじゃねーぞ?その…」
「お前らの事か?当たり前じゃ 言わんよ」
それに と付け加えて
「金時の腰も心配じゃからの」
「…だーから そーいうこと言うなバカモジャ」

銀時が赤い顔で思いっきり肘鉄を入れてきた。
…それすら可愛いと一瞬でも思った自分て末期なのか。
ただ多分これは―恋とかそんな高尚なものとは言えないんだろう。



銀時が出ていった部屋で一人になる。
次の戦場に行くまでに菓子屋に行ってくるかと、のんびり考えた。




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高銀ベースで坂本さんちょっかい話。
たまに本気出す坂本サンいいなとか〜
高杉サンのせいで?銀ちゃんお色気増してそうだなとか…
恋とかにはならなくても坂本サンと銀サンは仲良さそう

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