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○監察方 山崎退の考察 [土銀←山崎]


最近、副長の様子がおかしい。
妙にそわそわしてたり機嫌が良かったのが急に悪かったり。
そして、外泊が増えたり。

近くで見てれば、そりゃ気になるってものでしょ。




   +監察方 山崎退の考察+




「失礼します」


真選組屯所。
監察方である俺は、仰せつかっていた捜査の結果報告のため副長の部屋に居た。
報告をする俺に、机に向かい筆を走らせる副長は此方を見ないまま、ご苦労 といつもどおりの挨拶を返す。

机の上には沢山の書類。
そこから目を移すと、畳の上に一冊の情報誌が投げてあった。
表紙には"今話題のスイーツベスト100"の見出し。
副長がスイーツ…?

ふと、気になっていたことを思い出し副長に話しかけた。

「副長甘いものお好きでしたっけ?」
「別に」
「最近甘味屋よく寄ってますよね」
「俺のじゃねーよ」
「…手土産か何かですか?」
「持ってかねぇとうるせぇからな」
「甘いものをですか?」
「あぁ ホント奴は…ってコラ」

仕事に夢中でこっちに意識半分で答えてきたのをいいことに、誘導してちょっと聞き出してみようした…のだけど。
バレて ぎんっと睨み付けられた。

「なんだ?何聞き出そうとしてんだ?あん?山崎ィ」
「きっ 聞き出そうなんてしてないですよ 副長が勝手に…」
誤魔化そうと、へらっと笑うと
「嘘つけ 誘導してただろがテメェ」

筆を置いた手が刀の柄に掛かる。

「いや そんな…ってぎゃあぁぁぁぁ」

一目散に部屋を飛び出した。
瞬間にキレた副長に打つ手なし…今は逃げとくしかない。






「危なかった…」

どうにか副長から逃げ切って、屋根の上に避難した。

「ったく すぐ刀抜くんだからあの人は」

ふぅ と息を吐く。
やっぱ鬼だ とか愚痴を溢しつつ、さっきの会話を思い出してみる。


手土産
甘いもの…


要するに、何処かの誰かの所へ行ってるって事か。
持ってかないと…ってのはきっと一度二度ではなく通っているんだろう。

「通ってるって事は…」

イイ相手が出来た?



「…はぁん そうか」

ニヤリと笑う。
隊内の人間のプライベートを探るのは一応禁止されてはいるけど…

「ちょっとくらいなら…バレないように」

副長たる人のお相手がどんな人か、知っとく位は悪くないんじゃないか?
…決してお見合いの仕返しとかではないから。


真選組監察方、勝手に捜査開始。






副長が非番のある日。

昼過ぎになってふらりと出掛けて行くのを見つけて、こっそりと後をつける。




始めに向かったのは洋菓子店だった。
確かこの前の情報誌に名前が出ていた気が…
男一人で入るにはやや勇気もいりそうだが、慣れた様子で店に入っていく。
暫く待っていると小さな箱を持って出てきた。

「手土産 ね」

中身は疑うべくもなく菓子だろう。

そしてまた副長は歩き出す。

どんな美女の所へ行くんだか。
お菓子持ってくってのはもしかして子連れか?なんて下らない想像を働かせながら、見つからないように一定の距離を置きながら尾行を続ける。




そうしてたどり着いた先は…


「あれ…此処って…」

よく知った場所。
万事屋だった。



「万事屋ってことは旦那に依頼でも…てかもしかして」

攘夷浪士捕縛の件が頭を過る。

まさかその事で?
さっきまでの甘い想像とはうってかわって、物騒な事を思い浮かべた。
何にせよこのままでは話も聞こえないので、万事屋の屋根裏に潜入する事にした。




ピンポーン

「はいよ〜」

がらりと玄関の開く音。
様子はまだ見えないが、どうやら旦那が出てきたらしい。

「よぉ」
「お きたきた ケーキ」
「…俺は丸無視か?」
「んなことねぇって〜 なぁケーキちゃん」
「…」
「ったく 冗談だっての 上がれよ」

がらがらと玄関を閉めて副長も入ってきた様だ。

「ほい お茶」
「おぅ」

穏やかな というか至って普通な二人の会話に、さっきまできな臭い事を想像していたこちらが面喰らう。
つーか…何て言うか…

「ケーキ貰うぜ〜」
「あぁ」

見つけた天井の隙間から部屋の中を窺う。
副長の隣に座った旦那は、嬉しそうにケーキをつついていた。

「夜はメシどうする?何か作るか?」
「外行けばいいだろ」
「土方君の奢り?」
「お前払ったことねーじゃねぇか」

ものすごく"いつもどおり"な雰囲気の二人。
もしやこれって…

「たまには出してんだろ」
「少しな」
「うっせ」
「また飯でも作ってくれりゃいいさ」

また?
てことは前から通ってるって事?

「へいへい 今度な」
「あぁ …ほら 付いてる」

そう言って副長が旦那に近付く。
上からなので良くは見えなかったが、口許が触れ合っていた様に見えた。
付いてる?ケーキのクリームでも…?


…俺今 見ちゃった?


「お前な…」
「何だ?」
「…何でもねーよスケベ」


頭の中で何かが繋がった。

…そうだったのか。
二人が(いつも喧嘩しちゃいるけど)仲いいらしいことは知ってはいた。

ただ、まさかこういう仲だったとは…



これ以上は二人に悪い気がして、そっとそこを去った。
やはり他人のプライベートには踏み入らないが吉と自分に言い聞かせながら。







数日後の屯所。
副長の部屋に行くと居たのは見知った顔。

「何でェ 山崎かィ」
「よぉジミー」

沖田隊長と万事屋の旦那だった。

「どうも…副長は?」
「もうじき戻ってくるだろ 交代の時間でェ」
沖田隊長が時計を見上げる。

「そうですか 旦那は今日はどうしたんです?」
「ん まぁ… ちょっと野暮用」
「さて 俺そろそろ時間なんで行きまさァ」

沖田隊長が立ち上がる。

「山崎は土方さんに用かィ?」
「あ えぇ」
「なら 少し旦那の話相手でも頼まァ」
土方さん帰って来るまでな と付け加え
「じゃあ旦那 また」
そう言ってぺこっと頭を下げ、部屋を出ていった。


部屋に旦那と二人残された。
先日の事もあってなんとなく居づらい…勝手に尾行してた自分が悪いんだけど。
どうにか話の糸口を探す。

「だっ 旦那は今日は副長に御用で?」
「あぁ この後飲みに行くんだわ」
「いいですね お二人で」
「ん… かな」



…話が続かない。
それに先日の副長との事がちらついて気になって…


旦那を盗み見る。
銀髪にばかり気をとられていたけど、良く見るとこの人肌白いんだなぁ。
いつもぼーっとしてるけど実は顔の作りも結構いいし。

"スケベ"とか言ってたって事は…コドモじゃないんだからきっとそういう事も―


「土方君おせーなー」


もやもや考えていた所に旦那が急に喋り出して、びくっとする。

「そ そーですね…何かトラブルでもあったかな」
「トラブルだったら暫くかかるんかな」
「…まぁ交代の時間でしたら他の者に任せてある程度で帰って来ますよ」
「あー ひまー」
いや 俺一応話相手してるじゃん。

隣でごろりと寝転んだ旦那の、開いた襟から白い肌が覗く。
あれ…なんか気まずい。


「…旦那って」
「ん?」

そうだ。
今、ここには二人きり。
それとなく聞いてみるなら今かもしれない。

「副長と その…」
「土方と?」
「その〜… 仲良いのかなと」
「付き合ってんのか じゃなくて?」
「そう付き合っ…ふぇっ?」

やんわり聞いてみようとした俺の気遣い虚しく。
一番聞きたいことを本人にズバリ言われてこっちがたじろぐ。

「だっ 旦那」
「別に今さらだし 沖田君にゃバレてるみてぇだしな」
「はぁ…」

確かにあのバ…じゃない沖田隊長にバレてるんじゃ今更かもしれないけど。

「それで?」
「いや 別にその…」
ただの好奇心です とも言えず…

何と言おうか迷っていると、旦那が体を起こした。


「興味でもあんの?」
「え…?」

薄く笑う旦那。
その表情はいつもの感じと違う。
妙な色気のある人だとは思った事あるけど

…この人…こんなエロかったっけ?


俺の耳許に近付き
「こーいうの」
そう囁かれた声がいやに腰に響く。
チチッ と旦那がインナーのジッパーを下ろす音が聞こえた。

「えっ いや ちょっ」
「暇潰しでもするか?」



待て待て待て――
これはあのちゃらんぽらんな旦那。
それ以前に副長のお相手で…つーか男だしっ。


なのになんで流されそうなんだ俺。
万が一、億が一にも何かあったら…


斬られる。鬼に。



頭の中ぐるぐる廻っている俺の目の前で、旦那が ふっ と吹き出した。

「冗談だっての …え?ジミー君もしかして童貞?」
「ち っがいますよっ」

抗議するも心臓はバクバク言ってる。
俺、からかわれた…?


その時、廊下を渡る足音が聞こえた。


障子が開いて、立っていたのは副長。

「よぅ 待たせたな万事… 山崎?どうした」
「あ あの 報告書を届けに…」

しどろもどろになりながら、横に置いておいた書類を副長に差し出した。

「ご苦労だったな」
「は…いえ」

副長は受け取った書類に目を通していく。

「土方くーん まだお仕事〜?」
「わーってるよ ちょっと待ってろ」

旦那に言われ、副長はそちらを向きながら書類を机に置いた。
眉間に皺を寄せてはいるが、その声に棘はない。

「えと…じゃあ 俺はこれで」

そそくさと部屋を出た。





人の恋路を邪魔するほど野暮ではないし。
ましてやあの二人じゃ多分馬に蹴られる程度じゃ済まない。

でも、あの副長の様子は旦那のこときっと大事にしてるんだななんて。

…考えていたらさっきの旦那の姿が不意に浮かんで、一人どきまぎする。



「まぁ…案外お似合いなのかな」


とりあえずこの考察の結論は、当人達がいいなら経過観察…か。


ただし、絶対に間違いだけは起こしちゃいけないと自分に誓った。




xxx




今回はこっそりスト…じゃない調査して知っちゃった山崎な話で。
ザキは受難な感じかなと…
外から目線で書くのは結構面白かったです。


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