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○温まる元 [土銀]
「はー…」


溜息とも違う、独り言と言うには言葉の足りない声が口から漏れた。


日が落ち、すっかり暗くなった時間。
通りに並ぶ店には明かりが入り、賑やかな声が聞こえてくる。


頬を撫ぜる凩の冷たさに肩を竦めた。
しかしながら、その凩に負けないくらい冷たい風が吹いているのは懐の中。

「はー… あーくそぅ」


パチンコからの帰り道。
今日は一発キそうな気がした…のだけど。

「あとちょっとだと思ったんだよなぁ…」

飲まれていく玉を追う内に、まぁ、なんつーか。
ポケットを探る手に触るのはチャリチャリと冷たい感触だけで。

「…あー もー寒ぃわコノヤロー」


誘う赤提灯を横目に家路を急いだ。




    +温まる元+




「ただいま〜」

玄関へ入ると神楽の靴の他にもう一足。
…あり?この靴…


応接間を抜けて和室の襖を開ける。

「銀ちゃん おかえりアル」
「よぅ」
「おぉ ただいま…」
「寒いアル 早く閉めてヨ」

神楽に言われて襖を閉めた。
炬燵に入ってんのは、向かって右から神楽と定春と…

「…あの 土方君?何で居るの?」
隊服姿の副長殿。

「現場が近かったんでな 仕事終わって寄ってみた」
「へーそーかぁ… じゃなくて」
ばん と炬燵を叩いて
「何当たり前のように寛いでんですかお前は」
「来たらお前いねぇし もうすぐ帰って来るって言われたんでな」
「誰に?」
「ん」

そう言って土方は、寝そべって炬燵に入る神楽を指差す。
神楽がむくりと起き上がる。

「パチンコ負けてれば大体帰る頃ネ」

…確かにその通りですが。


「…手土産くらいあんだろな?」
ちょっとイライラを込めて言ってみた。
「あぁ さっきチャイナに」

周りを見ると、空になった中華まんの紙袋。
神楽がすんなり家に上げた理由が分かった。

「…いつの間にウチの子手懐けてんだよ」

ったく…
しかも神楽に渡しちまったら俺の分残らねえし。


「で?何しに来たの」
空いていた正面から炬燵に入りながら聞く。
「何って…別に用ってワケじゃねぇけど」
「何だソレ」
「…用がなきゃ来ちゃいけねぇかよ」
「銀ちゃん」

言い合いになりかけた所へ神楽が口を挟んだ。

「私先寝るネ 行くヨ定春」
「おぉ… 風呂は?」
「もう入ったアル」
「あ そう…」


取り付く島もなく、立ち上がった神楽はふと振り返り

「テメェら煩くすんなヨ?」

言い残すと定春を連れて和室を出ていった。




閉められた襖を見ながら
「…あれって…俺らの事バレてる?」
土方に聞くと
「だろうな」
今更 と溜息を吐かれた。
「…これって何?微妙に気ィ使われた…?」

そりゃ薄々は、バレてるだろうと思ってはいたけど…
妙なこっ恥ずかしさに炬燵に突っ伏す。

「……何で突然来たんだよ」

突っ伏した体勢のまま、ぐりん と顔だけで土方の方を向く。

「突然ったってお前携帯持ってねぇし 近くまで来てたから…」
「炬燵に入りに来たと」
「そうそ… じゃねーよ」

今度は土方が炬燵を叩いた。

「煩くすんなよ 神楽が怒んぞ」
「… ―近くまで来たからお前のアホ面見に寄っただけだ」

ほら と出された紙袋。

「何だよ?」

開けてみると中には白くて丸い―

「あんまん?」
「チャイナがいたらどうせ残らねぇだろうと思って」
「…さすがフォロ方君」
「誰がフォロ方だ」

こういうとこ本当に細かいよなとか思いつつ、かぶりつくとまだ少し温かい。
炬燵の中にいれてあったんだろう。
くさくさしてた気持ちが少し温まった気がした。


「美味いかよ」
「まーな」
「そうか」

土方がふっと表情を緩ませる。
…コイツは無意識なんだろうけど見てるこっちが恥ずかしくなる。
ただそんな顔をさせたのは…多分俺で。



「…お前この後屯所帰んの?」

一応聞いてみた。

「いや あとは非番だから別に」
「なんか食う?」
「ならどっか行くか ガキ起こしちゃいけねぇし」

そう言って初めて煙草に火を点ける。
…神楽に気を使ってたのか?

「…お前将来禿げるな」
「は? 急に何だ」
「それよかどこ行く?言っとくけど俺スカンピンだぞ」
「いつもの事だろ まぁ身体でしっかり払えや」
「うーわ オッサンくさ」

うるせぇ とか言ってる土方に、近付いてそっと唇を寄せる。
その時聞こえた。


…向こうで押し入れの開く音。


ばっと離れて様子を伺う。
足音は廊下の方へ出ていった。

「厠か?」
「みたいだな」
「…とりあえずソレ食ったら行くか」

少し気まずいままあんまんをかじった。





xxx




冬なのでそれっぽいのを…
神楽に気付かれてるのに気付いてない銀ちゃんとか。
気付いていた神楽と土方さんでそのうち何やらやらかしてくれたりとか…?


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あきゅろす。
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