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時には残酷さも必要で
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「お前宛ての郵便物がきてた。ただのダイレクトメールだがな」

「ゴミ箱にでも捨てとけ。なぁ、お前って飯は食うの?」

「食べる必要はない。が、この部屋の空間内にある食材なら、食べられないこともない」

 最初の説明で“この部屋以外での物体にはまず触れられなくなった”といっていた。
 逆に捉えると、”この部屋の中にある物体なら触れられる”という訳か。触れられる物には食べ物も含まれ、だから食べることが可能になるらしい。
 

 俺は額に手をあてて唸ると、途端に悩みだす。何せ俺は自炊しない。ほぼ外食かコンビニ弁当ばかりを口にして生活していた。
 悪魔の分どうすっかな。今の気分的には牛丼が食いたいから、某チェーン店で外食をしたいが、いくら食事をせずとも平気な相手でも、自分だけ腹を満たすのも気が引ける。

 ふとここで、ある妙案が閃いた。コンビニ弁当を二人分買ってこの部屋で食べればいい。そうか、つまりはそういうことだ。
 コンビニに牛丼があるといいが、なかったらカルビ弁当とかでもいいか。昨日は晩飯を食べていないし、空腹で腹が鳴った。
 ちょうどいいか と悪魔も誘ってみる。

「んじゃ、腹減ったしコンビニでも行くか。お前も、自分の食いたいの選べよ」

 悪魔は対応に困ったように、目を泳がせている。

「俺には必要ない。お前の怒りや憎悪さえあればいい。……無駄な気遣いはするな」

 俺の優しさも“無駄”の一言で済ますのかよ。あーそうかよ。可愛げがねぇったらありゃしねぇ。
 天邪鬼な性格が災いし、俺は是が非でも悪魔に飯を食わせようと、より一層奮起する。

「じゃあ、お前の分は適当に買うから帰ってきたら食うぞ」

「……昨日ヤリまくったから、耳まで遠くなったのか?」
 

 皮肉をいわれ、頭に血がのぼる。それでなくとも割と短気な俺は、余計に気分を害した。

「てめぇッ!主の俺に一々反抗的な態度とるんじゃねぇよッ!!」

 力強く怒鳴ると、悪魔は途端に無言になった。命令したわけではないが、どうやら例のごとく発動してしまったらしい。

「別に無言になんなくても、俺の神経を逆なでさえしなけりゃそれでいいんだ。おい!何か喋れよッ!」

「……お前は牛乳でも買って飲んどけ。カルシウム不足過ぎだ」

 あれ?ふと思い直してみると、これは二重命令に相当するんじゃないか?とまたしても疑問が浮かんだ。
 説明はもうないっていっときながら、要は俺に聞かれない限り、こいつには答える気がまるでないようだ。
 

……上等じゃねぇか。

「二重に命令しても通じるのか?例えば同時進行できるものなら可能なのか?」

 一呼吸置いてから問いかけると、いくらか怒りが静まった。
 悪魔はあくまで淡々としているが、さっきのように俺を苛立たせる言葉は発しなくなった。

「同時進行できるものなら、2つまでは……な。3つ以上は効かないぞ。後、同時進行できない命令は最初に言ったものが優先される」

「そーかよッ!じゃあ、コンビニ行ってくる」

 悪魔との会話を切り、引き出しから財布を取り出しズボンのポケットに突っ込む。
 ジャケットを羽織り、寝室を出ようとしたら――

「純」

 突然名前で呼ばれ、意図せず振り向いてしまった。 
 名前を教えた記憶がないのに、どうして知っているんだ?

「なんで俺の名前……ッ?!」

「ダイレクトメールに書いてあった。まぁ、俺は人間を名前で呼ぶつもりは毛頭ないが」

 だったら、呼ぶんじゃねぇよ。もう何年も下の名前で呼ぶ人もいないから、一瞬だけど心臓が高鳴った。
 それでなくても昨日から脈拍が早くなったし、頼むから俺を驚かせないでくれ。

「なら……どうして今は呼んだんだよ?」

「本名かどうかの反応をみるためにだ。契約者の中にはたまに偽名を使う奴もいるんだ。偽造パスポートをいくつも持ってたりな」

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