時には残酷さも必要で
7
「お前宛ての郵便物がきてた。ただのダイレクトメールだがな」
「ゴミ箱にでも捨てとけ。なぁ、お前って飯は食うの?」
「食べる必要はない。が、この部屋の空間内にある食材なら、食べられないこともない」
最初の説明で“この部屋以外での物体にはまず触れられなくなった”といっていた。
逆に捉えると、”この部屋の中にある物体なら触れられる”という訳か。触れられる物には食べ物も含まれ、だから食べることが可能になるらしい。
俺は額に手をあてて唸ると、途端に悩みだす。何せ俺は自炊しない。ほぼ外食かコンビニ弁当ばかりを口にして生活していた。
悪魔の分どうすっかな。今の気分的には牛丼が食いたいから、某チェーン店で外食をしたいが、いくら食事をせずとも平気な相手でも、自分だけ腹を満たすのも気が引ける。
ふとここで、ある妙案が閃いた。コンビニ弁当を二人分買ってこの部屋で食べればいい。そうか、つまりはそういうことだ。
コンビニに牛丼があるといいが、なかったらカルビ弁当とかでもいいか。昨日は晩飯を食べていないし、空腹で腹が鳴った。
ちょうどいいか と悪魔も誘ってみる。
「んじゃ、腹減ったしコンビニでも行くか。お前も、自分の食いたいの選べよ」
悪魔は対応に困ったように、目を泳がせている。
「俺には必要ない。お前の怒りや憎悪さえあればいい。……無駄な気遣いはするな」
俺の優しさも“無駄”の一言で済ますのかよ。あーそうかよ。可愛げがねぇったらありゃしねぇ。
天邪鬼な性格が災いし、俺は是が非でも悪魔に飯を食わせようと、より一層奮起する。
「じゃあ、お前の分は適当に買うから帰ってきたら食うぞ」
「……昨日ヤリまくったから、耳まで遠くなったのか?」
皮肉をいわれ、頭に血がのぼる。それでなくとも割と短気な俺は、余計に気分を害した。
「てめぇッ!主の俺に一々反抗的な態度とるんじゃねぇよッ!!」
力強く怒鳴ると、悪魔は途端に無言になった。命令したわけではないが、どうやら例のごとく発動してしまったらしい。
「別に無言になんなくても、俺の神経を逆なでさえしなけりゃそれでいいんだ。おい!何か喋れよッ!」
「……お前は牛乳でも買って飲んどけ。カルシウム不足過ぎだ」
あれ?ふと思い直してみると、これは二重命令に相当するんじゃないか?とまたしても疑問が浮かんだ。
説明はもうないっていっときながら、要は俺に聞かれない限り、こいつには答える気がまるでないようだ。
……上等じゃねぇか。
「二重に命令しても通じるのか?例えば同時進行できるものなら可能なのか?」
一呼吸置いてから問いかけると、いくらか怒りが静まった。
悪魔はあくまで淡々としているが、さっきのように俺を苛立たせる言葉は発しなくなった。
「同時進行できるものなら、2つまでは……な。3つ以上は効かないぞ。後、同時進行できない命令は最初に言ったものが優先される」
「そーかよッ!じゃあ、コンビニ行ってくる」
悪魔との会話を切り、引き出しから財布を取り出しズボンのポケットに突っ込む。
ジャケットを羽織り、寝室を出ようとしたら――
「純」
突然名前で呼ばれ、意図せず振り向いてしまった。
名前を教えた記憶がないのに、どうして知っているんだ?
「なんで俺の名前……ッ?!」
「ダイレクトメールに書いてあった。まぁ、俺は人間を名前で呼ぶつもりは毛頭ないが」
だったら、呼ぶんじゃねぇよ。もう何年も下の名前で呼ぶ人もいないから、一瞬だけど心臓が高鳴った。
それでなくても昨日から脈拍が早くなったし、頼むから俺を驚かせないでくれ。
「なら……どうして今は呼んだんだよ?」
「本名かどうかの反応をみるためにだ。契約者の中にはたまに偽名を使う奴もいるんだ。偽造パスポートをいくつも持ってたりな」
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