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時には残酷さも必要で
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 耳元で、切なそうに、狂おしそうに、愛おしそうに囁いた。極上に低い男の声が鼓膜を震わせ、脳に直接響く。

 心臓が一気にドクンッと跳ね上がった。瞳孔を開き、瞬きさえ忘れると、わなわなと両手が震えだす。

 まただ。性交した時も、顔を覗き込まれた時も、胸が高鳴ったのは何でだ――?

 俺は心拍数が早くなる病気にでもなったのか?混乱と怒りで思考回路がショートしそうだ。
 
 大体“お前を”を加えろだなんて俺は一切指示していない――ッ!

「ふ…ざけんなぁぁああッ!!誰がそこまでしろって言った!!反吐がでるッ!!」

 怒りで拳を振りかざそうとしたら、悪魔に腕を掴まれ止められた。

「お前が“命令”したから実行しただけだが?大体何故“愛してる”って言わせたかった?そんなもの、命令させて言わせる言葉じゃない」

 腕を振り払おうと、湯船の中で暴れたが、簡単に両腕を押さえつけられる。

「俺が…ッ!一番嫌いな単語は“愛”だッ!!どいつもこいつも恋愛なんかで溺れやがる糞どもがッ!!お前が命令どうり喋るか、敢えて最も嫌いな言葉で確かめていただけだッ!!」

 悪魔は締りのない面構えで、俺を見下すように勝ち誇った笑みを浮かべている。
 無性に腹が立つッ!こんな状態じゃなければ、右ストレートぐらい喰らわせてやったのにッ!

「……どうやら、本当のようだな。お前の“怒り”と“憎悪”の感情が一気に増幅したぞ。愛してるって言うのが、お前には一番効果的らしいな」

「その言葉、二度と使うんじゃねぇぇえええッ!!」

 憤慨して怒鳴ったら、急に視界が反転した。そういや、ここお湯の中だった…。
 すっかり頭から抜け落ちていた俺は、のぼせて意識が飛ぶ寸前に悪魔が浴槽から抱き起こしてくてた。

「わかったわかった。とりあえず、少し落ち着け。冷水かけて、全身洗ってやるから大人しくしてろ」

 浴室にある風呂椅子に座らせられると、悪魔の為すがままに髪や身体を洗われる。
 風呂から上がると、そのまま倒れるように寝室のベッドで眠りにつき、あっという間に一日が過ぎた。

――翌日、俺は電話で会社に『体調を崩し、熱をだしてしまいましたので、申し訳ありませんが今日は休ませて頂いてもよろしいでしょうか?
ご迷惑をおかけしますが、どうぞよろしくお願いいたします』と伝える。

 仮病ではあるが、会社を一度も欠勤しなかった俺は、苦もなくあっさりと休むことができた。
 腰が痛いのは相変わらずだったが、動けるまでには回復している。悪魔には悪いが、昨晩はソファで休ませた。

 寝室のシングルベッドでは、男二人で寝るには狭すぎる。悪魔用にベッドをもう一つ買わなければならないか。仮にも同居人だし。
 極力俺は家具や物を部屋に置かないタイプなので、ベッドをもう一つ置けるスペースは十分にある。

 折角だし、買い出しに出かけるかどうしようか迷っていると、ノックもせず悪魔が寝室に入ってきた。


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