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時には残酷さも必要で
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 自称悪魔から聞かされた実行できる命令の幅が…実はとても狭いとわかったのは、契約した直後だった。

「つまり、他の人間には触れられず干渉ができないが、むこうもお前の姿は見えないし干渉できない であってるか?」

「その通りだ。契約後はそういう理で、金が欲しいから盗め等の類や人を殺せという類のものも出来ない。この部屋以外での物体にはまず触れられなくなったし、魔法のように、金や物も産み出せはしない。側には、お前がどこにいても付き従えるし、会話ならできるがな」

 むしろ悪魔というより幽霊に近いだけではないか。とんだ寄生虫である。
 俺は自称悪魔の身体に触れてみた。いきなり触れたのに、怒るどころか身じろぎ一つせずにされるがまま微動だにしない。
 こうしていると、体温があるし、実体もある。胸に手を当てると、心臓もちゃんと脈うっていて人間となんら変わらないようにみえる。

……一応、悪魔なんだよな?信じてはいないが、全否定もできない。悪魔にはファンタジーの影響で蝙蝠のような翼が生えていると先入観があったが、
実際にはなかった。けれど、部屋の中で浮遊していたという裏付けがこいつにはある。


 自称悪魔は瞳を眇めると、前振りもなく突然俺をソファに押し倒す。あまりにも突飛な行動に目を丸くし、幾度も瞬きを繰り返した。
 滑らかな手で、俺の顎を上向かせる。
 筋張って俺より一回りも大きい手がどこか女性的なのは、青い血管がくっきりと浮き出る程に白いせいなのだろうか。
 

「……何のつもりだ?」

 聞かずとも、頭の片隅でこれから起こる行為を察知するが、常軌を逸した行動に思考が追いつかない。

――男同士だぞ?しかも、俺が女役かよ。

 背筋が冷たくなり、戦慄が走る。自称悪魔と俺の体格差は一目瞭然で、力ではまず振りほどけない。
 押さえつけられた両手首にさらに力が加わる。
 

「言った筈だ。俺達悪魔はお前ら人間の怒りや憎悪が生命の供給源だとな。男のプライドを最も傷つけ、憎悪を植え付けるのには……これが一番手っ取り早い」
 

 強引に顎を捉えられ――無理やり口付けられた。舌が簡単に口内にねじ込まれ、歯列をなぞる。
 自称悪魔が為すがままに俺の唇を貪る姿は、一見すると傍若無人のようだが、ねっとりと吸い付く舌の感触はこれから無理強いするというより、俺を楽しませるためのようにも感じた。
 喉の奥をえずかれると、息苦しさに喘ぐ。

「……ん……ぅッ……」

 唇から溢れる唾液が首筋をつたうと、悪魔はそれを綺麗に舐めとる。耳を嬲られ、低く囁かれた。

「…正直、もっと憤慨して抵抗するかと期待したんだが……。男にこんな事されて、嫌ではないのか?」

 際限なく俺の身体を弄りながらも声色は艶っぽく、どこか悦びを含んでいた。
 もちろん俺は同性愛者ではく、いたってノーマルだが、悪魔に与えられる行為に最初こそ驚きはしたものの、自分でも不思議なくらい嫌悪感はない。

 過去に付き合っていた女もいたが、目的は性交のためで、どの女とも半年以上関係は続かなかった。
 風俗も行っていたが、いつも物足りなく感じ、性欲が満たされた経験もない。

 今度は自分から軽い口付けをすると、悪魔は面食らっていた。

「……さぁな。毎日が退屈過ぎて……脳が腐りそうだったし、たまには……こーいうのも、刺激があって良いん…じゃねぇの?」

「お前は…変な奴だな。普通、怒鳴って暴れるか泣き叫ぶかのどっちかだ」

――調子が狂う。悪魔の立場上、これ以上この男を組み敷いて犯そうとしても意味はない。
 本来の目的は、同じ男に強姦され、怒りと憎悪の感情を増幅させることにあるだからだ。

 最後までしなくても、途中で拒否し、命令されれば、主に手は出せなくなる。
 ただ、未遂でもこんな事をされれば誰だって良い感情は持ち合わせなくなるので、始めから狙いはそこにあった。

 暴力の方が効率が良かったのかもしれないし、今からでもこの男を殴ればいい。命令され止められる前に。

 そう思い直し男を見下ろすと、視線と視線が絡み合う。男の瞳は熱を帯び、潤んでいた。
 蒸気する桜色の頬に、呼吸を乱し上下に揺れる肩、この先の行為を期待して泳ぐ身体は、実に扇情的で――理性が飛んだ。


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