時には残酷さも必要で
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身長は190cmを越え、均整の取れた筋肉質な肉体には、男の俺でも惚れ惚れする。なのに肌は驚く程白い。
アルビノ並みの白さで、瞳は黄金色、髪は赤髪で肩にかかるロン毛姿に一瞬どこのホストかと思ったぐらいだ。
まぁ、ホストというよりは、ロックバンドでもやっているかのような奇抜な格好をしているが。
上は黒地にドクロがプリントされたタンクトップ姿、銀の装飾が施された腕輪を身に付け、似たような揃いのデザインの首輪もしている。
穴だらけのズボンを着用しているが、それのどこが格好いいのか…俺にはパンクファッションの魅力はいまいち理解できない。
しかし、一番理解できないのは…そいつの足というべきか、身体が地面から20cm弱浮いているということだ。
ありえない。一体どんな手品を使っている?!頭頂部から足のつま先までくまなく確認したが……やはりそいつは地面からしっかりと浮いていた。
それよりも当面の問題は、不法侵入を許してしまった一大事をこれからどう切り抜けるかについてだが。
「お…お前、ど、泥棒か?!どうやって家に入った?!」
ピッキングでもやったのか?このマンションは玄関がオートロック式で、住人以外は中に入れないのに。
いや、オートロック式だから安全という認識で、部屋の鍵をかけ忘れたりする馬鹿な輩もいるが、俺は抜かりなくきっちり施錠した。
記憶を手繰り寄せるが、やはり間違いない。
泥棒にしては随分派手で目立つ男は、ソファで上体を起こしていた俺の横に同じく腰掛けた。
「泥棒ではない。お前が呼んだ悪魔だ」
「……なんのつまらない冗談だ?金ならないぞ」
男は立ち上がると――今度は俺のすぐ目の前で浮遊した。
例えるなら、無重力空間の宇宙にいるかのように、こいつは重力のある地球で平然とそれをやってのける。
部屋中を旋回し、敢えて俺に主張するためだけに、大げさに見せつけてきた。
どんなマジックだ?必ず仕掛けがあるはずだ。一刻も早く、謎を解明したい俺は顔が引き攣るのもお構いなしに男に問い詰める。
「俺はそのマジックの見物料でもとられるのか?せめて種明かしをしてくれないか?」
多少下手にでて様子を伺う。すると、男は盛大にため息をついて――
「お前は、随分と怒りの感情に満ち溢れていた。魅力的な供給源ではあるが……信じないのなら“殺す”」
俺を恫喝する。男は泥棒なんて生優しいものじゃなく、タチの悪い殺人犯だったという訳か。
「ま、待て!あ、悪魔だと信じるなら殺さないんだろ?信じるさ」
自分の命がかかっているからな。非科学的なものは信じない主義だが、今は嘘でも信じたふりをしなければ殺される。
男はまた俺の横に腰掛けると、何もない空間から一枚の紙と羽根ペンを取り出す。
「……では、契約にうつるぞ。お前の怒りの感情は俺の餌も同然だ。供給を失えばお前は死ぬ。契約も自動的に解除される。そのかわり、契約中はお前の命令を何でも聞いてやる」
要するに、俺と自称悪魔は主従のような関係になるのか。従者側がえらく尊大な態度ではあるが、命令を何でも聞くというのは魅力的だ。
自称悪魔は、紙のある箇所に名前を書けと促してきた。俺は羽ペンを借りると、迷わずサインした。というより、この場合サインをしなければ確実に殺される。
色々と疑問は尽きないが、下手に自称悪魔を刺激して死ぬよりかはマシな選択だろう。
けれど、この選択が俺の運命を大きく変える出来事だったとは、当時は想像もつかなかったんだ――
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