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時には残酷さも必要で
2


――久我さんと出会うようになってから、俺は彼の休日には会って遊ぶことが多くなった。
 虚脱感というか脱力感が常に付き纏っていたので、薬に手をだしたくなっても、彼と遊んでいれば気分が幾らかマシになってゆく。

 家に帰っても、めぐみは相変わらずいたが、日に日に調子が悪そうになってゆく。何故なのだろうか。

「おい、今度は何でめぐみが調子悪そうなんだよ?」

 ある時にそう問いかければ、ややあってめぐみがこう切り返してきた。

「そんなに久我が好きか?お前の負の感情が薄まってきている」

 めぐみにも久我さんの事は話しているし、友達として傍にいる分には楽しくて仕方なかった。
 だが、好きかと恋愛感情で問われれば一切なく、あくまで友人としてしか見れない。 
 

「好き?お前バカじゃねぇの?久我さんは友達だっつうの」

「向こうはお前が好きだとしてもか?」

 食い下がるような視線は、やがて俺を追い詰めるようなモノへと切り替わってゆく。

「言ったじゃねぇか。俺は愛なんてクソくらえだってな」

「………クソくらえか。その感情忘れんじゃねえぞ」

 めぐみがやけにしつこい。俺は苛立ちを隠せず、強い口調で責め立てる。

「お前が心配するような薬はもうヤってねぇし、これから久我さんと会う約束もある。さっきから一々絡んでくんじゃねぇよッ!!大体、めぐみのせいで解雇されたんだぞッ!!」

 今は職安にも通いながら、次の仕事を探している最中なのだ。日雇いとかで食いつないだり、貯金を崩したりして生活している。
 めぐみに対して苛々しだすと、途端に顔色が少しだけ良くなってきていた。俺の負の感情が薄まれば、こいつは死んでしまうのだろうか?

 そう思いたつと、今度は急に悲しみの感情が一気に俺を支配した。――寂しいとか感じているのか?
 まさかと首を横に振って否定すると、俺はめぐみを無視して久我さんに会いに行った。

「ごめんなさいッ!待たせちゃいましたッ?」

 とある釣り堀で久我さんと釣りをすることになった俺は、約束の時間より10分程遅れてやってきた。

「いいや?私もちょうど今きたところだよ」

「うっそだーッ!久我さんいっつも時間厳守じゃないですかー。俺に気は遣わないで下さいよ」

 久我さんの隣にすとんと座って、餌が釣り針につけれなくてあたふたしていても、彼が全て手伝ってくれて楽だった。
 ほんとうに人がいいというか、こんなに菩薩のような人に出会った試しがない。俺に好意を抱いている下心を差し引いても優しい人だった。

「俺なんかのどこが良いんです?」

 魚が中々釣れなくて、待っている間にずっと聞いておきたかった事を尋ねてみる。

「なんかって言い方は良くないなぁ。純くんは自分を過小評価しすぎているよ」

「そーですかねぇ。俺、愛想はないし、可愛げはないし、気は短いし」
 

「例えば、眼鏡を頭にかけているのに、眼鏡はどこだって探しているようなモノだよ。純くんは純くんなりに良いところがある」

 俺からすると、久我さんみたいな良い人が何故自分に好意を抱いているのかさえよく分からないでいた。
 暫く水面を眺めていて結局収穫は一匹だけという、散々たる結果だったが、久我さんとは無言でいても何故だか気まずさよりに包まれるよりも、居心地が良かった。

 結局久我さん家でいつものように宅呑みをしていたら、俺の考えが甘かった事に気づかされた。
 

――酒を呑んでいても、一向に抜けられない虚脱感にこの時は一気に襲われた。

 薬物をヤっていなかった人間には分からないだろうが、これは本当に辛い。それでも、頻繁に久我さんの仕事帰りとかに会って紛らわせていたようなものだ。
 ここにきて、目も死んだ魚のようになり、久我さんが「大丈夫かい?」と肩を揺すってくれた。そして何を思ったのか、誰かに電話している。

――まさか、救急車か?!と慌てる気力さえ失われている最中で、悪魔のように歪んだ三日月型の口をした久我さんがいた。

「私自身は手をだしたことはないが、知人に売人なら知ってるよ?薬、そんなに欲しい禁断症状に悩まされるなら、付き合ってよ、純くん。そうしたら、いくらでも薬をあげるよ?」

 羊の皮を被った狼は怪しく囁く。俺は――こくんと頷いてしまった。自分の意志の弱さに飽き飽きしながらも、久我さんにはこうなることが目にみえていたんだろう。
 

――俺はまた薬物に手を染めてしまった。

 売人と会いにいくようで、家には俺だけになった。そして1時間もしないうちに注射器を手に持って俺へと近づく。
 

――もう何でも良かった。腕に針が刺さってゆくと、直ぐに脳内には高揚感が駆け巡る。これだッ!!俺はこれを待っていたッ!!

 そのあと、自分から服を脱いで久我さんに跨り、唇に貪りついた。

「淫乱だね、純くん」

 狼は嬉々として喉を鳴らし、咆吼したかのように見えた。

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