時には残酷さも必要で
1
――拓郎の家に着いたら、知らない男達が何人かいた。全員薬物をキメているようで、既にハイの状態に陥っていた。
俺はこれからまた乱交セックスでもやらされて強姦されると思うと、訳もなく逃げ出そうとする。しかし、外に飛び出した所で拓郎が追っかけてきて手が伸びる。
「逃げるこたぁねぇだろ―?純よぉ、お前も気持ちヨクなろうぜ」
「やめろッ!!離せよッ!!俺は乱交はしたくないッ!!」
「何今更カマトトぶってんだ?ほら、手間かけさせんなッ!!」
道の往来で拓郎に引きずられるように部屋へ連行されるすんでの場面を――通りがかったサラリーマン風の男に止められた。
「君、××社にいる佐伯純さんじゃないですかッ!!おいッ!誰かは知らないが、佐伯さんから離れろッ!!」
その男性は以前仕事で名刺を交換した○○社の社員さんで……駄目だ、名字さえ思い出せない。
拓郎は俺と男性を交互に見ると、警察にでも垂れ込まれたら厄介と踏んだのか、あっさりと解放して立ち去った。
「大丈夫だったかい?えっと、私の名前は忘れているよな?改めまして、久我と申します」
ぺこりとお辞儀をし、久我さんは俺に手を差し出してきた。握手を求められているんだろう。
俺も素直に応じる。この手を握り返した時に、何故か懐かしい匂いを久我さんから感じ取った。
久我さんの家も近いということで、自然とお邪魔させて貰う流れになった。そこで2人で酒を呑んでは、会社の愚痴やら、解雇された話などで盛り上がる。
「失礼ですけど、何故佐伯さんのような優秀な方が解雇されたんですか?」
酒の勢いもあって俺はいらぬことまで口走ってしまう。
「ははッ!無断欠勤を1週間近くもしましたからね。解雇されて当然ですよッ!!」
「ご病気だったとか?」
「いえいえ、さっきの拓郎とシャブ仲間でして、薬を抜くのにッ!!会社に連絡できれば、解雇まではいかなかったでしょうが、そんな余裕もなくて」
酒を呑んでいれば、虚脱感が薄らいでいく気がしたのと、久我さんとは初めて出会ったというより、旧友に再会したような心地よい感じもあり、すっかり上機嫌になっていた。
しかし、久我さんは神妙な面持ちで俺に語りかけてくる。
「……私はそういうの、やったこともないので分かりませんが、なんにせよ今は使用していないなら良かったです」
「人が良いですね久我さんはッ!そういえば、一度お会いして名刺渡しただけなのによく覚えていましたね」
「………覚えていましたよ。だって貴方は、私好みの方でしたから」
「……と言いますと?」
何となく久我さんが言いたいことの先が読めてきてしまった。多分この人は間違いなく――
徐ろに久我さんは、酒を一杯飲み干すと、口を開いた。
「ゲイなんですよ、私。さっきの男との会話聞いてしまって。佐伯さんもこちら側だとは気づきませんでした」
ことら側というか、男との性交が楽しくて仕方がないというだけではあったんだがな。別に男しか愛せない訳ではない。
というより、何度でも言うが愛なんてクソくらえだッ!!
「ははッ、確かに俺拓郎ともヤってましたが、愛だとかこれっぽっちも信じちゃあいませんッ!」
俺も酒をぷはーっと一気に飲み干せば、佐伯さんが酌をしてくれる。俺も彼の空になったコップに杯を注いだ。
「……それは、寂しいような気もします。たった1人きりで生きていてはいつか綻びが生まれますよ?」
凛とした澄んだ声で優しく諭される。久我さんは年上だし、ゲイで、彼なりに茨の人生を歩んでいたんだろう。
経験者の苦労がにじみ出たような眼差しが、俺を射抜く。
「関係ないですよ。久我さんには―」
けれども、あくまでも俺は自分の意志や主張を曲げない。ろくに食べ物も与えてはくれなかったからか、酒のまわりが早い。
またも余計な事ばかり口にする。
「施設育ちですしね―、愛とかよくわからんのですわッ!」
間を置いて、改まって久我さんからこう告げられた。
「……私も施設育ちですよ。里親に引き取られる事もなく。愛なんて形はそれぞれですよ?友情だったり」
畳み掛けるように、申し立てられる。
「なので、私と友達になるところから始めてみませんか?」
何故だか言いくるめられているようで釈然とはしないが、俺は承諾した。
「……はぁ、まぁそれなら良いですけど」
懐かしい匂いの正体をようやく掴めた俺は、この日一人暮らしの久我さんの家でご好意に甘え、寝泊りさせてもらった。
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