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時には残酷さも必要で
4
「佐伯さん良いことありました?」

 会社で事務の女の子にこう聞かれて、俺は答えに考えあぐねた。

「えっと――……」

「あ、やっぱり彼女出来たとかですか?首に虫刺されできてますし」

 にやりとほくそ笑んで彼女は告げる。案外腹黒い女かこいつ。お茶だけデスクにぽんと置かれ、彼女はにやにやしながら立ち去っていった。
 彼女?まさか。幽霊みたいな存在の悪魔なら住み着いたけどな。しかも自己中でセックス魔人だが。


 デスクワークばかりだと毎日肩が凝る。首をぽきぽき鳴らし、仕事をしていると、今日も残業だった。
 ったくだから日本は過労死多いんだぞ。次々に帰宅してゆく同僚達を内心疎ましく感じつつ、俺はパソコンに向かっていた。

――夜の10時を回ったところで、切り上げて帰宅する事がようやくできそうになったので、俺は会社を出た。

 あいつ、暇だろうな―。やっぱテレビぐらい買ってやるかと車で家電量販店に行き、小さな安い液晶テレビを購入した。
 駐車場でテレビを積んでいたときだった。この駐車場の裏で何か音が聞こえていたと思ったら、人の悲鳴だった。

 悲鳴は男の物で、隙間から覗いていると、何人もの男達が一人の男を殴る蹴るわで完全に親父狩りの光景そのままだった。
 おいおい、こんな駐車場裏でよくやるよと、とりあえず店の人間か警察に電話するなりしようと踵を返したところで、カシャンと携帯をポケットから落としてしまった。

――しまったッ!!

 と思ったときには時すでに遅く、男達が俺へと近づいてきた。急いで車に乗って逃げようとしたら、それより先に一人の男がフェンスを飛び越えて俺を抑え付ける。

「つーかーまーえーたーッ!!おらこっちこいよッ!!」

 頬と鳩尾辺りを殴られて、痛みで視界が反転する。そのまま引きずられるように、裏へと連れて行かれた。
 見るからにチンピラっぽい奴らが5人はいて、既にさっきの男は袋叩きにあい、ぐったりとしている。

 よく注視すると、全員視点が定まっておらず、あきらかに薬物でラリっている状態だった。――これはヤバイと本能が告げている。
 どくんどくんと心臓の音だけがやけにうるさかった。男の1人がバットを持ち出し、俺の後頭部を殴る。

 それだけでも意識が遠くなりかける。もう1人が俺の首ねっこを捕まえると、赤い痣にきがついたようで、あざとく指をぐりぐりと箇所に押し付けた。
 

「こいつ、女なんかにキスマークつけられてやんのッ!!気色悪すぎるだろッ!!なぁ、他にも付けられてないか、確認してやろうぜッ!!」

 そう言われ、あっさりと俺は全裸に剥かれてしまった。すると、太腿の付け根にも赤い痣がいくつか出来てるのを見て、男共はゲラゲラ笑い出す。

「お前、ホモか―ッ!!女がこんなところまで痣なんか作んねぇもんなッ!!」

 嬉々として喜ぶ下衆な声に混じった一つの好奇心の目が、俺に降り注ぐ。

「なぁ、こいつ姦さねぇ?男を犯すってのも案外楽しいかもしんねぇぞ?」

――めぐみが太腿の付け根にまで痣なんか作られなければ、こんな男達に汚されずに済んだのに。
 ただ殴られて金取られただけで済んだのによッ!!俺はこの時ほど、めぐみを恨んだ事はない。

 男の1人が注射器を持ち出し、俺の腕に打ってきた。――まさかッ!!薬物かよッ!!

「やめ……ろぉぉおおおおおッ!!」

 叫びは直ぐにまた頬を殴られてもみ消され、騒いだら殺すぞと脅されて、流石の俺でも恐怖で頭が真っ白になった。

――こいつらはヤバすぎるッ!!

 ガクガクと小刻みに全身が震えだした頃、打たれた薬物の高揚感が効いてきたのか、この状況下で一気に楽しくなってきやがった。

 あれ?俺何でこんなに意気揚々としている?わけがわからなくなっている間に、俺は男達に犯されまくった。
 記憶が所々ブッ飛んでいる、めぐみにされた時より遥かに痛みを伴っているのに、次々に自身の蕾に男根を呑み込んでは、よだれが唇の端から溢れて止まらなかったことだけは覚えている。
 
 何度も何度も注射器で薬物を打たれて、俺の意識が戻った頃には辺りに誰もいなかった。
 こういう場面なら普通病院のベッドの上とかさ、と想像できる元気だけは取り残されていて。しかし、気分が高揚した感じが全然抜けない。


――楽しくて楽しくて仕方ないッ!!


 俺は全財産もすっかり空っぽのまま、車で何とか家に着くと、めぐみが出迎えてくれた。

「お前、どこで何してたんだッ!!何で昨日は戻らなか…ッ?!」

 尋常じゃない俺の様子に気がついたのか、心配そうに両肩を揺さぶられた。
 

「おいッ!!何のドラッグやってるかは知らねぇが、なんで急にそんなもんに手を……ッ!!」

 明らかに薬中な俺に対し、めぐみは動揺している。下から覗き込むような瞳は、今にも涙をこぼしそうな程潤んで充血しだした。

「……ヤられたのかッ?畜生ッ!!どこのどいつにッ!!」

「つか、てめぇのせいだっつうのー」

「……は?」

 俺はこの時の記憶さえ曖昧で、めぐみに何を口走ったのかさえ所々しか覚えていない。頭の中に虫食いが住み着いて、記憶を貪っているように。

「てめぇがー、痣なんか作りやがったから、俺は男達にホモだって勘違いされて強姦されてよぉ、こーんな気分になっちまってるんだぜーッ!ひゃはっはっはっははははッ!!」
 

 狂ってブッ壊れたように笑っているように人には写っているのだろうが、今は心底愉快だッ!!
 めぐみは押し黙って、俺に申し訳なさそうに項垂れていた。そんなめぐみを押しのけると、俺は通帳を引き出しの中から取り出す。

 
――早く薬物買ってこないとなぁッ!!こーんなに楽しい気分は永遠に続けさせてぇしッ!!


 幾らかの現金と通帳を手に、俺が玄関に向かおうとしたら、めぐみに腕を掴まれソファに押さえつけられた。

「頼むからッ!!正気に戻れよッ!!純ッ!!」

 久々に名前を呼ばれたような気がしたが、それさえ嬉しかったのかどうかさえ曖昧だ。
 暴れる俺の四肢をぎりぎりと押さえつけて、命令できないように口づけをし続けられた。

 唇が押し当てられる中で、隙間を見つけてめぐみが俺の口内に舌が割り込んだところに、思いっきり噛み付いた。めぐみが一瞬だけ怯んだ隙に俺は声高に叫んだ。

「俺の邪魔すんじゃねぇッ!!薬が、早く買いたいんだよッ!!」

 そう言うが否や、めぐみは酷く悲しげな表情で無言になり、覆いかぶさっていた俺の身体からどける。
 ラリっていた中でも、何故だか胸がチクリと痛み出し、罪悪感を感じた。


――外に出て、如何にも外国人らしき売人を見つけて交渉すると、自販機の裏に貼り付けているからそこで手に入れろと流暢な日本語で囁かれた。
 前金だけ支払うと早速指定された自販機裏で、薬物を手に入れた。炙って吸うタイプの物らしく、家に帰って吸ってもめぐみがどうせ邪魔してくるしなぁと適当な路地裏に着く。

 地面にぺたんと座り込んで、早速炙って吸い込むと、またも高揚感が脳内を駆け巡った。
 

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あきゅろす。
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