時には残酷さも必要で
2
深呼吸をし、もう一度尋ねる。
「で?好きな本のジャンルは?」
めぐみは目を丸くした。
「いつものように憤慨しないのか。つまらん。そうだな、基本的にはノンフィクションか歴史物の小説が好きだ」
俺は早速歴史小説のコーナーへとめぐみを案内し、借りたい本を指差すように指示した。
ついでに自分も借りる本を選んでいく。
「……これがいい」
めぐみが指差したのは、以前俺が読み終えた三国志を舞台とした小説だった。
「これかッ!結構面白かったぜ。三国志は奥が深いからな。登場武将たちの生き様に滾るんだよ……ッ!」
また興奮して声が大きくなると、慌てて口元を手で覆った。それを見ためぐみが、吹き出すように笑っていた。
「分かった分かった。騒ぐと、また周囲に白い目で見られるぞ」
目尻に涙が若干浮かんでいて、無性に屈辱を感じるがここは我慢我慢。
「うるせ―。長編でシリーズ物だからな。とりあえず、5冊借りるか」
ちゃっかり俺は戦国時代物の小説を借りて、2人で帰路についた。
マンションに着くなり、でかい図体のめぐみがソファを占領していて、三国志の小説を読んでいる。
だ・か・らッ!ひとつしかないソファに寝転がられれば、俺は床で本を読むしか無いわけで。
主なのにこの不遇さと理不尽さと……あと、こいつの傲慢さと図々しさには、ある意味脱帽されっぱなしだ。
「おいッ!めぐみ!寝転がるな。俺だってソファに座ってゆっくり読みたいんだよッ!」
すると、口元を緩ませ、にやにやしながら俺を眺めてきた。
「それはそれは、気が利かなかずに済まなかったな。なんなら、俺の膝枕で好きなだけ読んでいろ」
「アホかッ!お前みたいな男の膝枕とか、気色悪いっつうのッ!ほら、スペースを空・け・ろ・よッ!」
語尾を強めると、お決まりの命令が発動され、めぐみは上体を起こし、端に腰掛ける。
二人がけのソファに並んで座ると、否応にも布越しで身体同士が触れ合う。
じんわりと体温もとい、人肌のぬくもりが伝わってくる。
あれ?なんというか、気恥ずかしい。妙に落ち着かなくなってきて、本を開いて5分もしないうちに、めぐみの顔ばかりをちらちらと窺う。
俺の忙しない挙動不審な態度に気がついたのか、今度はめぐみがこちらの様子を窺ってきた。
「頬が赤いな?」
額と額をすり合わせるように、くっつけてきて、熱があるのかどうかを計られている。
慌てて、顔を横に逸らせた。
「ね、熱はねぇよッ!身体はどこも具合悪くねぇしさ……ッ!」
腰の鈍痛を除けば。
「ならば、またヤリたくなってきたのか?」
流し目で覗いた瞳に、不意にドキッとする。
「ち、違ぇよッ!誰かが隣にいるのが、何か落ち着かないだけだろッ!」
均整のとれ、整いすぎた顔立ちというのも困る。格好良いとは死んでも言うつもりはないが、俺が女だったら、多分こいつに惚れたんだろう。
あいにく、俺は男だし、愛なんてくそくらえだが。しかし、めぐみといると、妙にそわそわした気持ちになるのは何故なのか?
ぐるぐると考えを巡らせていると、めぐみは退屈そうにあくびを噛み殺す。
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