時には残酷さも必要で
1
――マンションを出て、2人連れ添って図書館までの道のりを歩く。隣にいるめぐみは浮遊しているため、厳密にいうと歩いてはいないが。
空を飛べる便利な身体が物珍しくなりめぐみを横目で追うと、視線に気づきこちらを振り返った。
「……面白いか?最初の内は、契約者共も皆、お前と同じような反応を示す」
「面白いっつうかさ、便利そうだなって。俺も……人間より悪魔に生まれたかったな」
めぐみはふと足を止め、空を仰ぎ見た。
「契約に縛られ、自由さえままならないのだが……こんな存在でも羨ましいと思うのか?」
その表情はどこか翳りと憂いを帯びていた。めぐみを見つめていると、俺は何故だか息苦しさを感じ、胸の奥がきゅっと切なくなる。
「悪魔っていうより、空を自由に飛べるのが羨ましい。生まれ変わったら鳥になりたいって、中学の卒業文集にも書いた事あるんだぜ」
「なんとも夢見がちだな。今でも本気でそう思うのか?」
「言っただろ。俺は人間が嫌いだ。生まれ変わるなら……人間以外の生物か物体でいい」
「……寂しい奴だ」
ふと、歩みを止め、隣のめぐみを思いっきり睨めつけた。
「はぁ?寂しいって俺がか?ばっかじゃねぇの?それとも同情か?どっちにしろ、くっだらねぇ事抜かしてんなよ」
それでもめぐみは、もの悲しげに俺へと視線を送り続ける。
「心の根底にある寂しさに向き合えない、気づきもしないのを強さだと信じているのなら……同情などする必要もなく、お前は憐れだ」
傍から見ると、独りごとを喋る阿呆のような俺に、通行人も振り返ってはサッと目をそらしてゆく。
「……ざけんなよッ!!親に虐待されて施設育ちなのが、ダチもろくにいないのがそんなに憐れかッ?!俺はな、1人で充分生きてきたし、これからだって1人で生きる。人間なめんなッ!!」
とうとう怒鳴ってしまい、足を止めた周囲の人々が奇異の目で俺を注視している。
めぐみに関しては、命令が発動してしまったのか、無言を貫く。これも、主に反抗するなというニュアンスが含まれているからなのだろうか。
とにかく、この場に留まっている場合ではないので、気恥かしさを紛らわせるため、一つ咳払いをして足早に図書館に向かった。
俺が途中で走ったりしても、めぐみは難なく後ろから身体を浮かしながらついて来る。
市内で一番本の数がある図書館まで到着し、とりあえず俺は借りていた本を受付で返却した。
さっきの赤っ恥はさらさらごめんなので、めぐみに小声で耳打ちした。
「おい。さっさと読みたい本を選べよ。って、外の物には触れないんだったな。好きなジャンルの物は?」
「……もう怒っていないのか。お前は熱しやすく冷めやすいようだな」
「冷めてねぇよ。言っとくが、今度俺に同情なんかしやがったら、ぶっ殺す」
「そうか。では、尚更“愛”と“同情”を与えなくては…な」
忘れていたが、こいつは人間の負の感情が餌らしい。とすると、俺の神経を逆なでするのが効率的という訳だ。
あ―あ。馬鹿みたいに感情剥き出しにしていたのが、そもそも間違いだったようだ。めぐみに何を言われても熱くならずに、クールになれ、俺。
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