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時には残酷さも必要で
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『時には残酷さも必要で』









 俺はこの世界が嫌いだった。厨二病だっていわれても構わないくらい、人類など全て滅んでしまえばいいと本気で思うタイプだ。
 人間の歴史、衰退、業、欲…知識を得れば得る程、真実に近づけば近づく程、絶望のビジョンだけが映って、俺を苛む。
 
 一体どれだけの生物の血が流され、犠牲になっている?何故戦争や差別はなくならない?
 埋めようのない貧富の差、嫉妬、メディアの情報操作、洗脳、自殺、矛盾、嘘……数をあげればキリがない。

 上っ面だけ社会に適合できていれば、生きていける。
 誰も彼も所詮上っ面で、自分に都合の良い言葉しか聞かない。聞こうともしない。
 興味がある事しか知ろうともせず、無知を、知らなかったで済まそうとする人間にも腹が立つ。
 
 要するに俺は誰も信用できないし、しない。

 愛があれば平和だ とのたまう偽善者は甚だしい。大体、俺は“愛”を知らない。


 生まれた時から実の親に虐待され、死にかけたところを児童養護施設に引き取られた。
 施設の人間も所詮仕事で、何人もいる子供の一人に過ぎない俺に愛情は注がれなかった。
 里親に引き取られることもなく、18歳になるまで施設で暮らしていた。
 

 学生時代も、人との距離は浅く広く、当たり障りのないことを会話していれば、変に浮いて虐められる心配もなかった。


 施設を出て、仕事をするようになった社会人の俺は、休日には図書館でよく本を借りていた。読む本のジャンルは特に決めていない。
 何でも良いんだ。こんな退屈で、つまらない世界での暇つぶしにさえなれば。
 
 そんな時、図書館である一冊の面白い本を見つけた。題名は『悪魔召喚』。馬鹿げている。
 あまりにも陳腐で幼稚過ぎたから、逆に興味を惹かれ、借りてみた……それだけだった。

 マンションに帰宅すると、早速数ページ捲ってみる。
 ある一文に、『悪魔は恨み、怒り、嫉妬といった負の感情が強ければ強いほど、その人間の元に姿を現し契約を交わす。
 悪魔にとって、人間のそういった感情が生命の源だから』と書かれていた。

 こんなもの、幼稚園児を騙せる程度のおとぎ話に過ぎない。具体的な黒魔術の方法でも載っているかと、期待した俺がバカだった。
 本を閉じテーブルの上に置くと、これから何をして過ごせば良いか分からなくなる。
 せっかくの休日だが、テレビもなければ娯楽になる物が一切無い部屋なので、後はもう寝るしかないと決めた俺は、昼寝をするためソファに横になった――
 





「おい、起きろ」

 夢の中で、知らない男が俺を呼ぶ。赤の他人に起きろと言われると、たとえ夢でも胸糞悪くなる。
 当たり前だ。高圧的な物言いと態度に気を良くする人間など普通はいない。

「さっさと起きろ、殺すぞ」

 気持ちよくうとうとして眠っていたのに、悪夢かよ。何だって夢で俺が脅されなきゃならないんだッ!

「いい加減にしろぉぉおおおおッ!!!夢の分際で、俺の昼寝を邪魔するなッ!!」

 目を覚まし、部屋の中で声高に叫ぶと――



――えらく整った顔立ちの…全く見知らぬ男が、そこにいた。



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