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アーザの火
6
「――で?これからどうすんのさ?」

「そうだな。ここに長く留まりすぎても、軍に見つかる可能性がある。なんせ御堂、アンタの故郷なんだろここは」

 二人に言われると、御堂もはじめから分かっていたかのような態度をとる。

「ここに来たのは、何も匿われるだけだった訳じゃないよ。忘れてたけど、この方法ならメイオを探し出せるよ」

 御堂が真白にイーリスの柄を雲母に手渡すように言い、それを受け取った。

「この柄がどうかしたですかぁ?」

 よく状況を飲み込めていない一同を横目に、御堂は雲母に頼みごとをする。

「雲母の能力で、他の柄がどこにあるのか特定して欲しいんだ」

 最初に目を見開いたのは国定だった。

「この女も特殊な魔法が使えるのか?!」

 呼応したのは雲母で、ざっくりとした説明を皆に語り始めた。

「わ、私の魔法は、触れれば物の所在位置が分かるモノですぅ。あんまり実践向きじゃないですし、そもそも能力なのかさえ疑問視する程ほとんど使わなかったですぅ」

 村の人間もそんな特殊な二人の能力を知ると、最初は親切にしてくれていたのだが、徐々に遠ざかっていった。
 気味が悪かったのだろう。普通ならそんな魔法とも呼べない能力を誰が歓迎するのだろうか。

 それで御堂が八歳の頃には完全に二人だけで生活していたらしい。
 あまりの処遇に暮らし始めた頃は雲母はよく泣いて、御堂が兄貴分として支えていたようだ。

 二人の過去に触れ、真白は同情する。

「そっかぁ。大変だったんじゃない?今まで、さ。御堂がいなくなった後だって一人で堪えて生きてきたんでしょ?」

「えぇ。でも私も大きくなってからは大分落ち着いてきましたよぉ。村の皆さんから食物をいただけたりはしますが、会話は未だにあまりありませんけど」

 親に売られ奴隷となった身の霧也や、孤児だった国定は雲母にあまり同情などはしなかったが、かわりに一つの疑問が生じた。

「御堂、お前よく雲母を置き去りにして軍になんか志願したな。何でだ?」

 国定が問いかけると、困ったようにいつもの笑顔で御堂は笑った。

「軍って給料良いだろ?最初はそんな不純な動機だったなぁ。ほら、いつまでも村の人に迷惑ばかりもかけていられなくて、雲母に仕送りしてたんだ」

 それでか、と納得した皆は早速雲母に柄を触れてもらい能力を発揮させる事にした。
 無数の蛍のような丸い光が雲母を包み込むと、次第に光は収束してゆく。

「御堂ッ!!地図を持ってきていただけないでしょうか?印を刻みますぅッ!!あちこちに点在していますからぁッ!!」

 雲母らしからぬ早口でまくしたてられれば、御堂が慌ててテーブルの上に世界地図を広げた。
 ペンも持ってくると、幾つかの場所に雲母が丸印を書いてゆく。そこがおそらくメイオがいる場所だ。
 そして――イーリスの柄があるところでもある。

 行雲が言っていたように軍本部の古城には丸印は確かに書かれてはいなかった。

――じゃあ、一体誰が元在さんを連れ去ったんだッ!!イーリスの柄と共にッ!!

 真白が苛立ちから、人差し指の爪を噛むと、霧也がその様子に気づいたのか、頭をポンッと軽くなでる。

「……ありがと、霧也」

「これくらい、いつでもしてやる。真白は俺のマスターだからな」

 本当はお金を出して霧也を買ったのは国定だが、真白個人をどうやら霧也はマスターとして完全に認識している。
 何故だか、真白も霧也の傍だと落ち着けるのだ。

 雲母が世界地図に印を刻んだのは、17箇所だった。それだけしかメイオが生存していないのだろうか?
 柄なら大抵のメイオは持っている筈だ。ルーア・ルースを出てから最初に持ち歩く品だからだ。

「ねぇ雲母、本当にこれだけなの?もっとあるんだと思ってた」

 真白が雲母に尋ねると、御堂が横から口を挟んだ。

「……間違いない。雲母の能力に狂いは無いからね」

 意気消沈した真白が、ため息混じりに呟く。

「なぁんだ。僕の同胞ってこんなに少ないのか……」

 メイオの事を知らない雲母はただ訳が分からなかったが、霧也は会話の流れからおそらく真白が特別な存在だとは薄々感づいていた。
 国定と御堂は早速その地図に書かれた場所に明日には出立するとだけ全員に告げると、雲母の身柄が一つ気がかりになる。

「……軍は確実にここへ向かってきている筈だ。御堂の幼馴染の雲母を生かしておくとは考えにくい。拷問させられるぞ」

 御堂も国定の言葉に頷く。

「そうだね。雲母、君には悪いけど、俺たちと一緒に付いて来て貰うよ」

「わ、私ですかぁ!?み、御堂が言うのであればお供いたしますぅ」

 結局のところ、舌足らずで幼い見た目の少女?!(26歳に少女もどうかと思うが)も一行の仲間に加わった。
 

――そうして、翌日。朝日が昇った頃、皆で一斉に空へと羽ばたいた。

 まず、印から最も近かったのがテラ島にある一番栄えた都市の一軒家に反応が強く示されていた。
 隠れ潜むこともなく、堂々と都市で生活していたのだろう。昼の太陽が燦々と降り注ぐ中で、一行はその家の前まで降り立った。

 コンコンと真っ先に扉を叩いたのは、同じメイオである真白だ。その方が警戒心も幾ばくか、とかれるからだ。
 
「はいー。どちらさん?」

 中年の黒翼にしかどうあがいても見えないその人物は、真白を見るなり、片翼とか関係なしに目を真ん丸く見開いた。

「……あんた?!同類か??」

「そうだよ。皆、この人僕と同じだ。間違いない。で、早速で悪いんだけど、イーリスの柄持ってるよね?少し触らせてくれないかな?」

 冴えない中年のメイオは奥の戸棚からイーリスの柄を素直に持ってきた。同族に初めて出会った嬉しさも手伝ったのだろう。

「しかし、あんた……片翼だし、羽は塗料塗ってないのか??白いままだぞ?!白翼と間違われるだろうに……」

 メイオの翼の能力を発揮すると、色が自然と落ちて白くなる。白翼だと色々と不都合が多い世の中では、黒く羽を染めるのがメイオの処世術だ。
 だから最初、国定達が真白と対峙した時も真白は黒翼に見せかけていた。

「そうですね。塗料を分けて貰えます?片翼の白翼って姿は色々と人目につきやすくって、ちょうど困っていたところです」

「あぁ。構わないぞ。あんた、美人さんだしな。良い女だ」

 ねっとりとした厭らしい視線に鳥肌が立ったのか、真白は慌てて否定する。

「これでも男なんでッ!!厭らしい目つきはやめてもらえますかねぇ?じゃないと、後ろの仲間に強制的に一発ぶん殴ってもらいますよ?」

 とここで、初めて真白の後ろにも仲間達がいたことに気が付いた様子で、中年のメイオは悲鳴を上げた。

「ひぃいッ!!あ、あんたら、良く見たら軍人さんじゃないかッ!!その顔どこかで見覚えがあるぞッ!!」

 国定と御堂は仮にも元・大将と元・中将だ。昔、新聞などで良く顔写真が載っていたこともあるかもしれない。
 御堂はまず腰を屈めて落ち着いた声色で話し出す。

「安心してください。今は軍人ではありませんし、貴方を拘束したりもしませんから。イーリスの柄、お借りしますね」

 真白から受け取ったイーリスの柄を、御堂が瞼を閉じながら触れる――。

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