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アーザの火
23
 黒いソファに身体を沈めていた江月は、あちこちに浮かんだ紅い痕を指でなぞる。
 首筋や太腿の付け根を中心にきつく吸われ、今では痣となった箇所もみると、内海の所有物になれた気持ちになり一時の幸福に満たされる。

 
 内海は先にシャワーを浴びており、あがってきたら次に江月も入る予定だ。
 全裸でソファに寝転んでいると、寒さで風邪を引いてしまいそうになるが、色々な体液が付着した身体で服を着るのも臆劫だった。

 行為をしてちょうど1時間が経過したところで、執務室の扉が2度ノックされた。
 このノックの仕方は、もう一人の副官であるいたるだろう。江月は気だるげにのろのろと起き上がり、扉を開けた。

 現れた江月を見たいたるは、戸惑いの色を隠そうともしなかった。出てきた江月が全裸という何ともあられもない格好だったからだ。

 
「江月、服着てから出ないとダメじゃないッスか―。そんな格好でうろついたら、内海元帥以外の野郎に襲われても文句は言えねぇッスよ?」

 とはいえ、内海と江月が性交してるのは特別珍しい事でもないので、見慣れてしまったといえば見慣れている。
 以前も何度か全裸姿の江月を執務室で見かけるたびに注意はしていたが、あまり聞き入れてもらえない。というより内海以外の命令や指図は受けない主義らしい。

 どこまでも忠実で純粋な内海の犬だが、江月はどこか不安げな面持ちでいたるから顔を背けた。

「……もう、うつみいがいとは、しない。さわらせない。おそってくるなら、だれでもころす」

 奴隷市場の出身である江月は、男娼商品として売り物にされていた経歴がある。
 この頃はまだ戦闘能力も高くなかった江月は、見目麗しいからという理由だけで“ペット”として扱われてきた。

 奴隷商の店主が江月を売り物になるまで散々もて遊び、肉欲のままに蹂躙し、貪ってきた。
 一人目の男主人の元では“ペット”として寵愛を受けていたが、その3ヶ月後には江月は行くあてもなく、奴隷市場に自分から戻っていった。

 
 話を聞くと、男主人が謎の失踪を遂げ、家に戻ってこなかったそうだ。
 以降買い手が現れるたびに、江月を“ペット”として迎え入れた客の全員が、謎の失踪を遂げる事になる。

 こうなってくると噂にも尾ひれがつき、江月は呪われた忌まわしい商品へとなり下がった。
 結局は奴隷商の店主が玩具として側に置いておいたようだが、古城から軍が武力介入し江月は内海に引き取られた。

 江月は“ペット”である自分を恥じるどころか、“ペット”である自分にしか価値を見いだせないのである。
 内海に交わした最初の言葉は『あなたが、こんどはおれをぺっとにしてくれるの?』だった。

 すると内海は『自分、全然ペットやないやん。で、名前はなんて言うん?』と江月が“ペット”であることを否定したら襲いかかってきたらしい。
 渋々『じゃあわいの“ペット”でええから!名前は?』と内海が肯定し、尋ねてからようやく江月は大人しくなった。

 短くぶっきらぼうに『こうげつ』とだけ告げ、以降2人は主従の関係になる。

 いたるは念を押すように、再度江月を忠告した。

「分かってるッスよ。でも、江月は魔性の色気があるから、自己防衛の意識をもっと強く持てってこと」

 けれども、江月は目を細めて艶やかに微笑んだ。

「いたるだったから、ふく、きなかった。いちおう、しんようはしてる」

 やれやれといった具合にいたるは肩を窄(すぼ)めた。

「さいですか。信用されるのは有難いけど、そこまで言われちゃうと……襲うぞマジで」

 割と本気で、江月の全身を這うようにくまなく眺めていると、総毛立ったように身を竦(すく)めていた。

「……きもちわるい。むかしの、ごしゅじんさまたち…みたいなめで、こっちみんな」

「可愛気ないッスよ―。で、内海元帥はシャワー浴びてんの?だったらこれ渡しておいて」

 いたるは懐から茶色の封筒を取り出し、江月に手渡した。内海が頼んでいた例の偽・診断書だ。
 受け取った江月はいたるを見送ると、黒いソファに座り内海を待つ。 

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あきゅろす。
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