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アーザの火
4
 内海は顔を訝しげて詳細を言うのを渋っているが時間は待ってはくれず、仕方なく切り出す。


「……極力少ない人員で迅速に捕獲してこいとの命や。すぐにでも飛び立ってくれ」

 黒翼は身一つで戦場や現場に向かうため準備などあまり必要ないのは身軽に動けて良いんだが、何故こうも急を要するのか。
 魔女という大層な通り名から想像するに、よほど魔力が高い女なのだろうか?だったら、軍が欲しがるのも無理はない。
 一応罪人の容疑がかけられている女だが……おそらくは利用するために、罪の証拠がなくとも是が非でも捕らえよといった趣旨なのだろう。
 腐敗した上の下衆なやり方には反吐が出る。
 任務を忠実にこなし、相応しい実力を兼ね備えれば、高い地位を約束され、年功序列というより完全に実力主義でモノをいう。
 ただ、男尊女卑の社会でもあり、女性で高い魔力に応じた実績があったとしても、男に比べると相応の評価も待遇も期待はできないのが現状だ。
 
 白翼は年齢と共に身体が衰退する傾向にあるが、黒翼は違う。
 年齢を重ねても、魔力が衰える事はなく、むしろ自分次第の努力でいくらでも引き延ばせれるから白翼は勿論の事、同族にも時には末恐ろしいと敵視され忌み嫌われる場合もある。
 どの道魔女は、これから先自分の意志が尊重されずに軍の所有物として…慰みモノとして扱われるのだと思うと多少なりとも同情はするが、かといって見逃せば自分の死も同然だ。
 元よりやる気はなかったが、さらに憂鬱な気分になる。

「……じゃあ俺の部下含め5人もいれば足りるだろうな」

 柄にもなく内海は心配そうに国定の顔を覗き込む。

「何や胸騒ぎがするわ。こうなったら、いっそわいも同行するか!」
「胸騒ぎ?まぁ、俺が行くんだから大丈夫だろ」

 すると内海から意外な答えが返ってきた。

「ちゅう。なんつーか、もっと予想できんなんかがある気がしてならん。上手く言えへんけど……、まぁ国定なら心臓刺されても死なんわな!」

 無理に茶化し、冗談を言うのは大抵内海が不安に駆られている時だ。
 何十年と過ごした幼ななじみという名の腐れ縁であるが故に分かってしまう。
 仕方ない、ここは敢えて茶番にのっかってやるか。

「お前の生命力も中々のもんだろ。なんせゴキブリ並みだからな」
「ゴキブリいうな!例えるならせめてゾンビやろ」
「なら、これからはゾンビと呼んでやる。おいゾンビ」
「勝手に人の名前をゾンビにすんなや!改名は受け付けてへん。そうか、素直に内海って呼べへんなら内海様って呼んでもええんやで?なんも恥ずかしがることないで〜」

 にやにやしながら、内海は小さい頃の国定は可愛くてしかたなかっただのと一人で延々しゃっべっている。
 さっきのような不安はなくなった筈だ。口から生まれたような男に神妙な面持ちは似合わない。やっぱり内海は無駄にうるさいぐらいがちょうどいい。……今はうるさすぎるが。

「ったく、一人で永久にエアー会話してろ。俺はもう行くからな。お前が心配しなくても、直ぐに女は連れて戻るから安心しろ」

 そう言って笑ってみせたが、顔はやや引き攣ったかもしれない。

「……さよか、もう行かなあかんよな!……気ぃつけてな」

 腹の底から絞り出すように、掠れた内海の小さな声を国定は聞き逃さなかった。

「必ず無事に戻る」

 そう言い残し、部屋を後にした。




――ほどなくして、5人の黒翼が古城から飛び立つ後ろ姿を内海は室内から黙って見送る。

「これで良かったんやろうか」
 一抹の不安を胸に秘め、誰にともなく発した独り言は空に掻き消えた。

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あきゅろす。
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