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アーザの火
※R 15
 それからというもの、国定はこのシャーマの森で仲間と共に暮らし始める。森に名称などなかったようだが、皆で“炎”を意味するシャーマにしたそうだ。
 森が燃え盛り火事になりそうな名前で良いのかとも思ったが、内海達自身の存在を“炎”に見立てたそうだ。

 名前というのは個を表すものであり、計り知れない力を秘めている と内海が一声上げると、皆もそれに続いてカッコつけて息巻いていた。
 シャーマでは内海がリーダーらしい。7歳にして成人並みに速く飛べ、珍しいとされる闇魔法を扱える素質を備えていたからだ。

 光と闇の魔法を扱える者は1000人に1人の逸材ともされ、時に神聖視される程だった。魔法には勿論相性がある。
 国定は風の魔法を扱うが、風と土は互いが弱点である。水と火も同じで、光と闇もだ。
 これらの魔法同士がぶつかりあうと、相殺されず、互いの術者同士に多大な損害を被る。

 基本的には、痛み分けになるか、どちらも死ぬ場合が多いので、弱点である魔法同士ではまず戦いを避けるのが常識だった。
 まだ5歳だった国定は魔法の知識もほとんどなく、当時は扱えなかったので、内海からおおよその覚醒時期や、発動の仕方、速く飛ぶコツや処世術を仲間と共に学んでいった。

 こうして、盗みを働きながらも、シャーマの森で10年の歳月を過ごした。

 ある日の集会で、ペカドルを離れて移住し、定職についてまっとうに生きるかどうかについて仲間内で意見が割れた。
 話し合いの結果、仲間全員が18歳を超えたらペカドルを離れ皆で職を探すという方向になった。

 孤児であるがゆえに、雇ってくれる所はせいぜい白翼と同じような労働環境で、馬車馬の如く働かねばならないだろうが、それでもいつまでもここで生活しているわけにもいかなかった。
 
 内海が17歳で、国定が15歳の頃には、仲間も幸い一人として欠けることなく、いつものようにグループに分かれて街で盗みを働いていた。
 2人は常に行動や寝食も共にすることが多く、仲間内で最初は新参者に構いすぎる内海に嫉妬する者もいたが、今では当たり前の光景として受け入れられていた。

 街の大通りにある肉屋に狙いを定めた内海達のグループでは、一人が客を装い店員の注意を逸らす囮係を国定に決め、他の者達は通行人を装い周辺をぶらつく。
 別のグループはそれぞれ大通りから離れた肉屋や果物屋で盗みに出払っていて、万が一何が起きても成功したら後ろは振り向かず、シャーマの森に戻る指示を内海から暗黙の了解として受けていた。

 国定はできるだけ愛想良く肉屋の店員に話しかける。

「おじさんちょっといい?俺、親の使いで買い物にきたんだけど、その鹿肉はいくらするんだ?」

 店員とおぼしき男は、白髪に近い銀色の髪に水色の瞳を持った色素の薄い少年の国定を……舐めるような視線でねっとりと、頭部から足のつま先までくまなく見つめていた。
 フードを被っているとはいえ、国定の透き通るような白い肌は隠しきれず、男は未成年の少年を愛する特殊な性癖の持ち主だった。
 男は国定に欲情し、あまつさえ所有物にしたいと、舌なめずりをし様子を伺う。

「あぁ、これかい?実は店の奥で肉の解体作業が滞っていてね、もし簡単なアルバイトをして手伝ってくれたなら、お礼にこの鹿肉を君に差し上げよう」

 口からでまかせの真っ赤な嘘ではあったが、国定は悩んだ。盗みなど働かずに獲物を貰える方が道徳的にも良いし、18歳になればペカドルを出て皆で働く約束もしていた。
 警戒心より、仕事をいち早く経験してみたい好奇心が勝り、国定は表を歩いている仲間たちに目配せして、シャーマの森に帰るよう合図を送る。

 それを確認し、近くで男との会話を聞いていた仲間も深く疑りもせず、内海以外は皆飛んでいった。
 内海だけは国定を心配し、肉屋の側から片時も離れようとはせず、物陰に身を潜めていた。

 作業台に通されると、他の従業員はおらず男と2人きりになる。

「ここよりもっと奥に、肉の保管庫があるからついておいで」

 国定は内海や仲間との生活で、猜疑心が昔よりもずっと薄くなっていたのを本人さえ自覚しないまま、男の言葉に素直に従った。
 甘い罠に簡単に引っかかった獲物を、男は逃したりはしなかった。

 案内されたのは肉の保管庫というより、ただの薄暗い物置き部屋だった。変だと気づいた時には、既に遅く――

「―――……ッ!!」

 国定が声を出す前に、男は片手で口を塞ぐ。暴れて攻撃魔法を使おうと手を前方に翳そうとした国定を、男は近くにあった縄で拘束した。
 10歳の頃には既に簡単な風魔法を操れ、威力は他の属性の魔法に比べるとやや落ちるが、発動の速度だけは他の追随を許さない。

 なのに、不意を突かれ油断を招いてしまった。自分の甘さを身にしみて体感すると、男は国定の予想を越えた行動に移る。
 服を剥ぎ取られ、全裸に晒されると――塞いでいた手を離し、唇に貪りついた。口内に舌が侵入し、訳も分からず絡みつく男の舌に思いっきり噛みつく。

 直ぐに唇を離し、腹を立てた男は、国定の頬を一発殴ると口に布を詰め込んだ。
 そのまま、国定の腰を高く掲げると、慣らしてもいない蕾に、固く勃たせた男の自身を無理やり埋め込もうとする。

 しかし、小さすぎる蕾に慣らしてもいないとなればすんなり入る訳もなく、国定もあまりの突飛な行為に抵抗し、必死でもがいていた。

 
 黒翼の間では、異性同士の性交でも子は産まれない。
 白翼が大昔に異性同士で性交し、母体に命を宿していたのを知ってはいたが、この頃から既に人工子宮で生産されていたし、性交はいつしか快楽を満たすためだけの行為となっていった。
 

 男は己の性欲処理のためだけに、国定を犯そうとしていたのだ。

――と、その時だった。いつまでも男が店を留守にしたのを不審に感じとった内海が、物置小屋の扉を破って突入してくる。
 目に飛び込んだ国定のあられもない姿に、男が何をしようとしてたのか即座に理解した内海は、全身の血管が切れそうになりながらも、怒り心頭で吠え狂った。

「てめぇッ!!国定から離れろやぁぁああああッ!!」
 
「なッ…?!なんだおま……ッ?!」

 男が言い終わる前に、我を忘れた内海は、手を振りかざし闇魔法を発動する。

(内海やめろッ!!お前が本気をだしたら――ッ!!)

 布で口を塞がれ、拘束され、声を封じられた国定はその場から黙って眺めている事しか出来ずにいた。
 男の全身に黒い靄が巻き付くと――一瞬にして肉体が粉々に散開し、血しぶきが洪水のようにあたり一面に噴射した。

 

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