アーザの火
20
生け捕りなんて命令でなければとっくに殺していた。
そういう訳にもいかないが、無傷で連れてこいとは言われていない。
いいだろう。そんなに欲しければくれてやる。
右腕の借りもある。まして男に遠慮する必要などない。
それに…国定が思う以上に切られた箇所からの出血量が多く、体力の消耗が激しい。視界が霞む。早急に決着をつけねばならない状況だ。
すかさず負傷していない左手を前方に突き出す形で広げるも、ここにきて重大な事実を見落としていたのを思い知らされる。
そうか、遼は――
御堂もほぼ同時に理解し、国定と顔を見合わせる。
「…国定ッ!いくらやっても魔法が全く使えないッ!!他の皆もそうなんだろ?」
肯定するように会話を聞いた部下2人も首を上下させるが、怖じけづいて最早頷くだけで限界のようだ。
「――とにかくその場から離れろッ!」
合成獣はその巨体からは想像を超える速さで、2階の踊り場にいた部下の1人めがけ、腕をしならせる。
為す術もなく――首が弧を描き、空に舞った。
鮮やかな血飛沫の噴射を目の当たりにし、場は極限状態に達する。
最期に声すらあげられずに、部下がまた1人簡単に死亡してしまう。
広間の一角で国定と対峙する1人の男だけが…心底愉快に、手にしていた唯一の武器を床に叩きつける。
――ナイフを捨てた?
すると、刃身のみが歪んで、元の原型を留めずに溶け出してしまう。
柄のみが床下へ転がる。常軌を逸脱する展開の連続に思考が麻痺する。
「何故自分が魔法を使えないのか、気になるか?」
男は身を翻し、棚に陳列されたとある小瓶を掴む。止める間もなく、国定は男の行動を許してしまう。
「1つ、ヒントを教えてあげる。僕自身もお前等のような“魔法”は使えない。だけど、館内に侵入した時点で、勝敗は決していたんだよ!」
そう宣言し所持する小瓶の蓋を開け、室内にまで生い茂る蔦へ液体を降りかける。
館全体が再び震え蔦がまるで意志を持つ生き物のように蠢きだした――
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