アーザの火
19
「何が可笑しい!」
相手は女だというのも忘れ、国定は胸倉を掴みかかる。
魔女は狂ったようにのけ反って笑い、甲高く耳障りな声を止めようとしない。
「あの化け物はお前が造ったのか…!」
国定が問えば魔女も負けじと睨み返す。
「そうさ。お察しの通りあれは合成獣だ。醜い化け物でも、僕の言葉を理解する知能くらいはあるんだよ」
会話の中に何処か違和感を感じた。
それが何かを理解する暇もなく、魔女は合成獣に向かい命令を下す。
「さぁ、僕の可愛い作品よ!黒翼をカケラも残さず食らいつくせッ!」
化け物――合成獣は、魔女の呼び声を合図に2階の踊り場へ方向転換する。
「何をやってる!早く魔法を使え!」
再度、部下に指図するも一向に魔法を使う気配を見せず、ただ騙って突っ立っていた。
いくら恐怖で身体が動かないにせよ、あまりにも妙だ。
曲がりなりにも部下は軍人で、戦わなければ死に繋がる事など重々理解できるだろうに。
「どうした!!何故魔法を使わないッ!?」
金属が外れ、床下に落ちるような音が微かに聞こえた。
「…女だと思って拘束具をきつく縛らなかった事を後悔しろッ!!」
刹那――国定は魔女に右腕を深く切り付けられる。
刃渡り15センチ程の鋭利なナイフを魔女は握りしめていた。
そのナイフの刃には国定の血がべっとりと付着し、先端からは滴が垂れている。
「……――ッ!」
気づいた時にはもう手遅れで、肘から手首にかけて肉はえぐられ、1番深い場所では骨までみえる。
激痛で叫びそうになるのを必死に堪える。額から噴き出す程、大量の脂汗が滲んだ。
部下達に気をとられていた……とはいえ、最初切られた時は痛覚も、刃が皮膚に捩込まれた感覚すらなく事後に鋭い痛みが腕に走り対処に遅れる。
結果、ナイフで切りつけられただけだが深手を負ってしまう。
――そもそも、何故痛みが遅れてやってきた?
「――国定ッ!!」
御堂が今にも泣き出しそうに心配している。
「…大丈夫だ。俺の…事は…気にすんな」
とは言ってみせたものの、立ってるのも苦痛で床下に血溜まりができる。
自力で拘束具を解き自由になった魔女は、クニサダへの間合いを徐々に詰める。
武器など一体どこに隠し持っていたのか。
「…まさか、男だったとは…な。この変態が」
魔女…いや女装した男は靴音を鳴らし歩み寄る。
ハイヒールを履いてるためか、靴音がやけに脳に直接響いた。
「その変態に今から殺される気分はどう?なんなら、お得意の魔法でも使えばいいじゃないか」
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