アーザの火
18
彼等は御堂へ向け背筋を伸ばし、直立不動に敬礼する。
不自然な事態に多少驚きはしてるものの、訓練通り気丈で整然とした面持ちだ。
部下達のそんな様子に安心したのもつかの間
「――ッァあぁぁあああああああッッ!!」
擘くような人の断末魔が室内に轟く。
一体何が起きたというのか。身体を反転させ御堂は広間を見渡し、飛び込んできた光景に愕然とする。
圧倒的な存在感を示し、顎から足元にかけて血を滴らせ見たことも聞いたことも無い未知の巨大生物がそこには立っていた。
小刻みに眼球は動き、荒く呼吸を繰り返しては獲物を狙う獰猛さを秘めている。
どうやら理解と把握する余裕を、こちらに持たせてくれる相手ではないらしい。
理屈抜きに全身が警告し、寒気と震えが襲ってくる。
ゆうに全長5メートルはある巨体を揺らし、牙を剥きだしに咆哮する。
辛うじて四足歩行なのが分かるぐらいだ。
顔の形状は例えようがなく、他の追随を許さない。
言うなれば、正真正銘の化け物だった。
でも一番信じたくない、目を覆い隠したくなるような真相は…その化け物の口元で無惨に人が喰われていた事だ。
誰か?なんて問わなくても一目瞭然で
「――りょ…う」
名前を呼ぶのがやっとで、絞りだすように声を出す。
「御堂中将!国定大将ッ!…あれは一体、一体なんなんですかッ?」
部下の1人が化け物の餌食になり、さらに巨大で得体が知れぬとあらばうろたえるのも無理はない。
“遼”だった骸は肢体を骨までかみ砕かれ胴体と頭部が化け物の牙に食い込み、くわえられている。
戦争や任務で常人よりは死に慣れ親しんでるといって過言ではない軍人でも、残忍に殺された姿には血の気がひく。
こんな化物に食われる死に様は嫌だ。戦場ですら亡くなれないなんて冗談じゃない。
2人の部下は遼の死と化物の登場でみるみる顔面蒼白になり、火をみるより明らかに戦意を失い固まっている。
――まずいッ!
ほぼ咄嗟の判断で国定は2人に指示を出す。
「何をボサッとしている!魔法を使えッ!俺も御堂も援護する。死にたくなければ動きを止めるなッ!」
非常事態に対応するだけで既に手一杯だが、監視を解く訳にもいかない。
またとない機会が到来したからなのか女はせせら笑う。
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