[携帯モード] [URL送信]

アーザの火
17
――魔女と町で噂されている女の館に、部下を数人引き連れて調査に来ていた国定は黒翼の女が妙な動きをしないように張り番をしていた。
 他の部下や御堂に捜査をさせ、自分は容疑者の監視に専念する。

 無論、両手両足を拘束し捕らえている。

 魔法の発動には基本左右どちらかの掌を前方に翳して放つ。
 片手が自由なら体内のマナが無くなるまで発揮でき、逆に両手を縛られた状態では発動は不可とされている。

 だが、気は緩められない。
 この状態なら相手が魔法を使えないのは承知してるが、古城を出立した際に交わした内海との会話がどうにも頭を過ぎって仕方なかった。




 女は微動だにせず国定の隣で膝を折り、大理石の冷たい床下に座り込んでいる。
 今のところ特に怪しい動きはみられず、自分の杞憂に過ぎなかったのかと国定は思い直そうとしていたが、状況はそう簡単に休ませてはくれないようだ。











 突然、地の奥底から物が破裂したような騒々しい音が1階の広間だけでなく、館内全域に反響した。

 その瞬間1階の広間や2階に置かれた物達が一斉に揺れだし、陶器で作られた花瓶やガラス製品が次々に割れだす。



「な、何だ?今の音ッ…」


 調査していた部下達は異変に手を止める中、御堂が見落としていたある事実にいち早く気づく。


「そういえば…遼が下のフロアを見てくるってッ!」



 部下の青年は5分程前、館にある地下の部屋を捜査すると言い残し階段を降りたまま戻らない。
 音源はあきらかに地下から広間へ、下から上へ地鳴りのように響き渡り、館全体が揺れる程の規模だった。


「遼が危ないッ!国定、俺が確認に向かうッ!他の皆はその場に待機してくれッ!!」


 国定は「分かった。気をつけろ」とそれだけ御堂に言うと、隣にいる魔女を警戒し、視線を決して外そうとはしない。


「これはどういう事だ?…答えろッ!」

 問い詰めるも、素知らぬ顔で応答するそぶりもなく黙っているが、女はある1点だけを見つめていた。



……何を気にしている?

 目線を追うと、壁際に飾られたある1枚の絵画に辿り着く。
 深紅のドレスを着用し、胸元が大きく開いてる黒翼の女の肖像画だった。
 どうやらこの魔女とは違う女の絵らしいが、魔女と絵の中の女にどこか面影を感じる作品である。


 魔女は肖像画を愛おしむように眺め、徐に独り言を漏らす

「月は光に満ち、光は月に包まれん」

 心情は読み取れないが、国定にも魔女の発した高い声だけがハッキリと聞こえてきた。








 一方御堂は地下に残る遼の身を案じて急行していたが、他の部下達の無事も確かめるように目で追うのも忘れなかった。
 2階にあり、下のフロアを一望できる踊り場に1人、1階の書斎を調査してた部下も確認しやすいようにと広間に出てきて待機している。


[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!