アーザの火
14
あまりにも一瞬の出来事だった。
国定と御堂が青年を助けようと動く前に、勝負はついていたのだから。
にも関わらず目の前で起きた光景は2人の瞼に焼き付いて離れない。
映像だけがスローモーションに連続して再生される。
煌々と燃え上がる炎に包まれて
――青年は絶命した。
「鎮火次第、死体は片付けておけ。そんなゴミでも軍が処理せねばならんからな」
上等兵は息も乱さず、何事もなかったかのように振る舞い、吐き捨てこの場から背を向けた。
御堂はほぼ無意識に上等兵の後ろ姿を追おうとするも、身体が上手く動かない。
暴れようにも、どうやら背後からきつく羽交い締めにされているらしい。
後ろを振り返り顔を見ると…国定がいた。
生きている人が側いる事に心のどこかで安堵する。
今の自分の顔は……人に見せられないくらいに酷いだろう。
きっと目は血走って瞳孔も開いてて、全身の血管が今にも音を立てて切れそうになる。
鼻にこびりつく独特の匂いと血生臭さはより濃さを増す。
青年の身体が燃え盛り、煙が昇るたびに気が狂いそうになる。
「お前まで二の舞になるな。例え二人掛かりで野郎を殺しても…別の人間に殺されて死体がさらに二つ追加されるだけだ。分かるな?御堂」
国定が初めて御堂と名前で呼んでくれたが、そんなのはどうだっていい。
見ているだけしか出来なかった無力と情けなさに堪えられず御堂は嗚咽を漏らす。
「なんで…だ。畜…しょ…」
呂律の回らない渇いた叫びを国定はただ黙って受け取める。
「いつか、奴より地位が上になれば葬る機会なんて幾らでも作れる筈だ。俺達自身がその存在になれば良い。違うか?」
一段と低く落ち着いた声に御堂は諭される。
ふと、気つけば国定の両腕で抱きしめられていて、これはどう見ても慰められている絵面だ。
「…2回も借りが出きたな。なぁ、いい加減あんたの名前を教えろよ。じゃなきゃ…ちゃんとしたお礼も出来ないだろ」
頬を僅かに膨らまし、国定を軽く睨む。
御堂は子供地味ていると感じつつ、悔しさと憧れの気持ちを同時に抱いてしまう。
当の本人は人差し指で頭をかき間の抜けた仕草で呆けていたが。
「国定だ。それに礼に及ぶ事をしたつもりはない。ま、どうしてもっていうならお前自身でも構わないが?」
言っている意味が一瞬分からなかったけど、腰に手を回され我に返る。
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