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アーザの火
13
 上等兵は額にしわを寄せ、怪訝に顔をしかめる。

「何を言っている?死体は火で清めなければ、魂が輪廻しないだろう。大体下っ端兵の勝手な行動など許される訳がない」

 諦めろ、と半ば強制的な命令を告げられれば御堂も国定も黙る事しかできない。ここで無理に口を挟めば即首をはねらても何らおかしくないからだ。
 階級の差はすなわち埋めようもない実力と権力の差でしかなく、黒翼同士の同族だからといっても、強者は勝者であり弱者は敗者である。



 上等兵に逆らうなど、そのまま自らの死にしか直結しない。
 賞賛と頷き以外の言葉を発した時点で侮辱とみなされてしまい、故に末端が侮辱罪として殺されようが極普通に何事もなく処理される。


 まさに替えのきく道具扱いだ。




















「信仰心が厚いのは感心しますし…おっしゃる意味もわかります。が、弟をその他大勢の死体と共に処理するのは…俺には耐えられない」






 場の空気が一瞬にして切り替わり、最悪の事態が訪れようとしていた。
 何故ここで盾を突く?その進言が何を意味するかわからない程馬鹿ではない筈だと、クニサダは力いっぱい叫びたくなる衝動を必死で抑えていた。
 張り詰めた緊張感だけが痛い程伝わってくる。

 御堂は青年の身をいち早く案じ
「発言を撤回するんだッ!」
 なりふり構わずに叫び、急ぎ上等兵と青年の間に強引に割り込もうとするが

「止めないで下さい!」

 青年に制止されてしまいその場から動けなくなる。

――どうして……ッ!

 御堂は混乱して上手く頭が回らず、声を押し殺してしまう。

 憑き物が落ちたような晴れやかな様子で、青年は心中を打ち明けた。

「もういいんです。それにね、一言いってやりたかっただけ。こういう黒翼の固まった先入観や意識が弟は大嫌いだったしね。ちょっとスッキリしましたよ」

 国定も体裁など構わずに咆える。

「馬鹿かッ!?お前を助けるために死んだ弟の想いを無下にするつもりかッ!自暴自棄になるんじゃねぇッ!」








「くくッ……」





 緊迫した場に相応しくない嘲笑いが響き渡る中、上等兵は青年へと歩を進める。


「不信心者の童が…神聖な炎で焼かれる死者を愚弄するつもりかッ!処理などと冒涜も甚だしい。罪人としてまず貴様を私が直々に処理してやろう」
 
 口元を三日月形に歪めると上等兵は右手を高く掲げ、そのまま垂直に振りかざす。




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あきゅろす。
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