アーザの火
12
英雄はこの直後に行方がわからなくないまま、謎の失踪を遂げている…。
それを良い事に、黒翼は白翼を奴隷扱い。
権力も全て黒翼の物とし、自分達の支配下に置いてしまう。
これでは何のための法制度だったのか本当の意味を成さないが、白翼は未だ英雄に強い希望を抱く。
――英雄は生きて再び舞い戻り、救いをもたらすと
御堂は一瞬眉尻を下げ困惑の色を示したが、改めて青年に向き合う。
「…じゃあ何故弟さんと白翼が仲良くしていたのを黙って見ていたんだ?君なら力づくでも止めそうな気がするけれど」
国定も御堂と同じ疑問を抱くがそれを口にする事はなかった。
傍観者に徹すると、再び腕を組み近くにある瓦礫の上に腰掛け静観する。
青年はすでに亡者と化した弟の前髪を優しく撫で、鉛色の空を眺めては懐かしそうに口物を洩らす。
「…そうだな。最初の頃は止めていたけど、どんなに交遊をヤメろと言っても弟は…きかなくて。
結局は諦めたんだよな。弟はその白翼の話ばかりするようになったけど、俺の心境は複雑だったな…
白翼は奴隷だから。でも、自分でもよくわからないけど、そいつを白翼の奴隷だとは思えなかった。…何でなんだろうな。」
乾いたはずの瞳から、大粒の雫が流れ軍服を湿らせる。
「そう言ってあげるだけで、弟さんも凄く嬉しいと思う。だって白翼だろうと関係なく自慢の友達だったんだから」
青年は白いチョーカーを弟の首に巻き、手を合わせ暫く黙祷した後「安らかに眠ってくれ……」と呟いた。
出会った時は虚ろ気だった後ろ姿も、今はより一層大きく見える。
晴れ晴れとした兄弟の顔が2つ仲良く並んでいるように映ったのは、自分の錯覚なんかじゃないと…御堂は心から思えた。
気づけば既に日は沈んでいて、鳥達が一斉に鳴き喚いていた。
辺りは灯が無いと何も見えない程、暗い。
遠くで召集の合図が聞こえてきた。
怪我人や死体を運び終え、これから帰還するのだろう。
事情を知らぬ1人の黒翼が、青年に駆け寄る。
襟に付いた階級章からして上等兵であり、二等兵の御堂達は敬礼する。
国定も少し慌てた様子で立ち上がり、後に続く。
「ご苦労!各自自分の隊に戻るように。その死体は…遺族か?後でまとめて焼いて葬る故、こちらに引き渡せ」
青年は複雑な表情を浮かべ思案していたようだが、自分より身分が上の上等兵に対し発言する。
「いえ、それには及びません。弟は俺が手厚く土葬します。この後はどうせ古城に帰還するだけですから、故郷にかえした後に戻ります」
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