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アーザの火
11
 御堂は青年の肩にそっと手を乗せ、こう述べた。
「今すぐに白翼への憎しみは消えないかもしれない。けど、白翼ってだけでその全てを恨まないでくれ…」

 青年は涙で濡れる瞳を袖で拭うと、徐々に落ちつきを取り戻してゆく。
 1つ深呼吸をし、間を置いてから唇を尖らせた。


「あんた…それは、おかしいだろ。白翼は皆、敵なんだから。黒翼は今までそう習ってきたし、軍の方便だって白翼は家畜奴隷で人権なんてないに等しいのが当たり前だろ」

 黒翼は幼少期から白翼を物のように扱えと、どこの学校でも習う。
 歴史では白翼の家畜として使役されていた当時の黒翼の姿も伝えられるが、その過去があったからこそ今の黒翼主義体制に黒翼側は決して異を唱えない。


 むしろこれは当然の報いであると、正当化されているのが現在の常識だ。
 そもそも100年前までは白翼の人口は黒翼より圧倒的に多かった。

 白翼は魔法が使えない分、繁殖能力が高く寿命も120年弱は生きるのに対し、黒翼は平均で60年の寿命だ。

 他にも白翼の方が遥かに知能が高く、手先が総じて器用である。
 だが、黒翼には全く感染しない病原菌の大量発生で著しく白翼側の人口が減少し、黒翼側の勢力が一気に増す。



 後に黒白大戦と呼ばれる世界戦争にまで発展した。
 この戦いでかろうじて黒翼が勝利を収めたとされたが、ある1人の白翼により戦況は長引き黒翼は思いもよらぬ苦戦を強いられた。

 兵糧も尽きかけ、兵も疲弊しきっていた両者は後に和解を交わし終戦したとされる。
 その和解の際に交わされた盟約がある。


 法制度の樹立だ。
 権力を持つ機関の設立と法は世界にとって新たな第一歩であり、1人の白翼―英雄―と呼ばれ黒翼に畏れられた男の願いが成就した瞬間でもあった。
 しかし、白翼からは英雄と褒めたたえられてはいたが黒翼からは緋眼の死神との異名が定着している。

 英雄と呼ばれた男は、人々から長年忘れられていた古の城を最高機関として運営させようとしていた。
 忌まわしくも輝かしい歴史と共に放置され、人々の記憶からも薄れていった……曰くつきの城を。




 できるだけ優秀な黒翼を集め、古城に大魔法を施すようにと英雄が先頭に立ち自ら指揮をとった。
 実際は禁術で、術者の命と引き換えにした大掛かりな物であったと記されている。


 そうして古城自体にも、人と同じように意志が宿るとされ庶民の信仰と畏怖の象徴的シンボルへと新たに生まれ変わった。

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