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アーザの火
10
 殴りかかろうと振りかざた拳を停止し、青年は瞳を大きく見開く。



「な…んで、知って…ッ?」




 おもわぬ意表と図星を突かれ、唖然とその場に立ち尽くした青年など一瞥もせず、御堂はそっと遺体のポケットから零れ落ちていた白いチョーカーを拾いあげる。



「そこの白いチョーカーが教えてくれた。俺の力は静物を操るだけでなく、その物体が見た記憶すらも読みとる事ができる」


 洗脳系の魔法にそんな使い方があったのかと…ふと国定の脳裏に疑問が浮かんだが、それ以上深く考えなかった。

 怒りよりも動揺が勝ってしまった青年は空に留めていた握り拳を下ろし、次第に肩を震わせると地面に1つ、また1つ雫を落とした。
 とめどなく溢れ出す涙と共に言葉をこぼす。



「確かに、弟には仲の良かった白翼がいた。…俺は最後まで弟だけは軍に入る事を反対してたんだ。けど親父は弟も軍に入れる事ばかり固執していて、結局弟も入隊して……こんな目にッ!」

 御堂は手にした白いチョーカーを青年に手渡す。

「戦争に善いも悪いもない。そこにあるのは“生”か“死”だけだ。そして…弟さんは君を庇って亡くなったみたいだな」

 死ぬ間際までポケットに大切にしまわれていた白いチョーカーの記憶。
 白翼の親友から貰い受け、弟のお守りとして初陣の日まで常に傍らにいた。

 ポケットの中は湿っていて暗く狭いけれど、主とその兄の言葉はハッキリと聴こえてくる。

 自分が死ぬ最後の時まで“兄さんには生きていて欲しい”と強く願い、口にしていた優しい主。






――誰も、悪く…ない、ほんとは白い翼だろうと黒い翼だろうと、関係ないんだ…



 だから、どうかそんな悲しい顔しない で…にい さん――


 声なき声でそう呟き、弟は静かに息を引き取った。
 白いチョーカーの記憶も此処で途切れる。

「弟さんは理解していたんだ…黒翼だろうと白翼だろうと皆等しく赤い血が流れていることに」


 それまで一連のやり取りを黙って傍観していた国定が突如、口火を切る。



「白翼を恨むのは筋違いって事…か。それこそお前の弟の想いを無下にするだけだろうな」


 御堂がどうして感情を捨て青年と接したのか…国定はこれで全てに納得がいった。
 第三者として接する意味合いもあり、自分は白翼や黒翼の味方でもないのだと表す一つの手段だったのだろう。


 不器用な方法だけど嫌いではない。と柄にもなく、言いそうになるのを国定は抑える。

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