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アーザの火
25
 たっぷりのきのこの匂いに誘われて、お腹を空かせた三人も合流すると、食事の時間が始まった。
 きのこシチューにパンにローストビーフまで出てくるとは、もう至れりつくせりだ。

「外でまた喧嘩しようとしてなかった、君ら。部屋の中まで響いてきて、雲母が止めに行こうとしたのを必死になって止めたんだから」

 御堂が箸を進めながら、ちらりといたると霧也を見遣る。はた迷惑だ、とでも言うように。

「そうですよッ!!仲間同士で喧嘩なんて許しませんからぁッ!!」

 もごもごと口に食材を詰め込みながらも、雲母が訴えかけるといたるが「じゃあ、手合わせならいんじゃね?」と提案してきた。
 
「その手があったか。そうだな、手合わせだろうが、手加減はしないがな」

「上等だコラッ!一度こいつとは決着つけねばならないッス!!」

 二人だけで睨みを効かせていると、雲母は「それも駄目です――ッ!!」と勢いよくテーブルから立ち上がって宣言した。

「こんな大事な時期に、怪我でもなさったらどうするおつもりですか?!いくら回復役の影森さんがいるからって甘えないで下さいッ!!」

 ちらりと雲母が影森を覗きみると、力強く頷いて親指を立てていた。

「雲母ちゃんが言うなら、俺は回復などしないからなッ!!今必要なのは団結力だッ!!チームワークを乱す者は許さんッ!!」

 それを横で聞いていた御堂がため息を吐きながらあきれ返っている。

「お前がそれ言うのか……。まぁ、確かに今は大事な時期だね。いつ大元帥や元帥が襲ってくるかも分からないしぃ?」

 頬杖をかきながら、食事を完食し終えた御堂が、あくびをして気だるげにしている。
 そんな様子を見ていられないと、国定は一言添える。

「御堂、投げやりになるなよ」

「だってさ、一番チームワーク乱しそうなの影森じゃないか。雲母以外回復しないとか言ったら殺すよ?真面目に」

 一瞬の出来事ではあったが、殺意の込められた視線に怖気づいたのか影森は「ひぃッ!」と小さく叫び声を漏らした。

「……そ、それは無いからあ、ああ安心しろッ!!お前が敵との戦闘で怪我したって回復してやるッ!!」

「なら良かったよ」

 御堂の目はあまり笑っていなかったが、口元だけ緩く上げると微笑んだ。
 それが余計に不気味だったのか、いたるも霧也もさっきまでの血気盛んな戦意が削がれていた。

 真白も雲母でさえ、びくびくと怯えている。影森に至ってはもっと悲惨だった。
 流石に止めろと国定が止めるまで、御堂は一見するとにこやかなのに、殺意が篭った笑みが消える事はなかった。

 そして、全員が食事を終えると、国定はいたると共にまた外で訓練を受ける事になった。
 今度は素振りばかりだけではなく、二度目の実戦形式だったが、もう自分を傷つけてまでノルマを達成しないのを条件に、開幕ともに始まった。

 外に出て雲母と影森は様子を眺めていた。他のメンバーは家の中で食器を洗ったりとせわしなく後片付けに動いている。
 もし万が一怪我をしたら影森が治療するといった形だろうが、何故か雲母までつき合わされている。本人の希望も合ってだが、影森に頼まれたのが大きい。

 第一の剣戟はやはりいたるからだった。キンッと剣がぶつかる音がすると、負けじと国定も剣を振るう。
 薙ぎ払い、受け流すと今度はいたるに向かって打ち込みに行った。剣同士のぶつかり合う音が響くと、いたるが少し押され気味になっていた。
 
「へぇ。少しはやるようになったッスねぇ」

「お前の動きを真似たり、自己流も混ざってるがな。……弱いまんまじゃ話にならんだろう?」

「弱いままじゃ、真白の魔法封じの意味がないッスからねぇ!国定さんには働いて貰いますよッ!!」

 互いの剣先がこすれあう。一撃、二撃、と前へ前へと踏み込むと国定は勝利を確信した。

――貰ったッ!!

 だが、後ろに押され気味なだけがいたるではない。力を込めて国定の剣をはじき返すと、また打ち込みにゆく。
 一撃、二撃、三撃、と数を増やしながら攻撃の手を緩めない。

 これでは国定は防戦一方だ。防御姿勢を取りつつ、僅かな勝機を見出そうとしていた。
 筋力の差でも体力の差でもいたるの方が上だ。だったら短期決戦に持ち込むしかないッ!!

 全力を込めて、一瞬の隙をあえてつくりだす。当然いたるはそこを狙って隙間を埋めに来ると思い込んでいた。

「ばーか。全部お見通しッスよ?そのがら空きの罠のところに誰がほいほい誘われるんスか?」

 そう。いたるはあえてがら空きの胸元ではなく下の足元を狙いに剣を振るった。
 にやりとほくそ笑んだ顔を知らずに――。

 国定の足元を狙ったせいか、いたるの上体が下方に下がった。
 そこをジャンプし、空振りさせる。

「なッ?!」

 いたるがバランスを崩し、驚いてる間にあろうことか国定は剣に乗っかり、いたるの剣ごと地面に沈む。
 重さに耐え切れずに剣を手放したいたるの顔面目掛けて、国定は剣を突きつけた。

「はい。俺の勝ち」

 冷や汗をかいていたるはヒューッと口笛を鳴らした。

「飛ぶとか、まさかとは思いましたッスけど、俺たち実際翼がありますもんね」

「足元狙ったお前が悪い。まんまと騙されてくれて最高だったぜ」

「何か腹立つッスねぇ……」

 食い入るように見守っていた影森と雲母からも「凄い国定さんッ!!」と言われている。
 影森は怪我人がでなくてほっと一安心したようだ。それだけ鬼気迫るものがあったのだから。

 とはいえ、国定がいたるともう互角程に戦えるようになるぐらい、剣の腕前が上がったのは事実だ。
 
「次は空中戦でもやります?もう国定さんなら飛空戦の練習の方が良いッスね」

 いたるが提案すると、国定はにやりとほくそ笑む。

「いいな、それ!よし、やるか」

 二人は空高く飛行すると、そこでも試合を行った。地上で雲母と影森は待機している。
 地面とは違う感覚に戸惑いながらも基本の型は一緒だった。
 
 敵目掛けて打ち込みに行く。特に白翼なんかは常に修練しているから、銃の攻撃で狙撃されるとやっかいだ。
 真白が簡易的に魔法封じを発動させても、白翼の持つ武器や我々の持つ剣には効かない。

 だからこそ、元帥以上を倒すにはこの戦法が望ましいのだが、白翼を連れて来られたチーム編成だとやりにくい。
 特に銃は厄介だ。先に魔法封じを発動させる前に、二人の合体魔法で銃や剣を使う白翼だけを先に倒せれれば一番良いのだが。

 大元帥とかいたらば、まず魔法で阻まれて無理だろう。
 合体魔法がどこまで効くか実戦でやらないと分からないが、あまり期待はしない方が良いだろう。

 こちらで銃の保持者で射的訓練も行っているのは雲母だけだが、実際戦闘になると役に立つのかは厳しい。
 彼女の性格上、人と争って血を流させるのを嫌っている傾向がある。敵であってもだ。

 だからこそ、護身用にと御堂が持たせたは良いが、役には立たないと考えるのが筋だろう。
 こちらも剣以外にも射撃訓練をしといた方が効率が良いのかは分からないが、今からだとそれも間に合うかといったところだ。

 対空戦を二人は行い、結局勝負が付かぬまま、雲母に呼び出されてもう寝る時間ですよと空まで呼びに来てくれた。
 そして地上に降り立つと、雲母といたると国定と影森は家の中へ入って就寝をとった。

 皆が寝静まる中、霧也といたるだけは起きていて、霧也からこう言われた。

「お前、その様子じゃ国定に負けたんだろ」

「悪いッスか?それとも笑うつもりッスか?」
 
 寝返りを打ってプイッと横に顔を傾ければ、霧也は布団の中で寝た体制のまま、目を閉じながらも感嘆していた。

「いや、あいつが強くなっていってるのは知ってた。大将なだけあるな。魔法だけじゃなく剣の才もあるとは」

「戦いが卑怯くさいとこはあるッスけどねぇ。俺が罠にまんまと引っかかっただけとは良く言うッスよ。大体、俺たちには翼がある。足元狙ったら飛んで剣の上にのしかかられて、敗北ッス」

 神妙な面持ちになりながらも、霧也は深く頷いた。

「戦いとは常にそんなものだろ。正攻法だけじゃ通らないものもある。しかし、地上戦やってたのに飛ぶとか、国定も中々負けず嫌いだな」
 
 いたるも霧也の言葉に大きく賛同した。

「そうッスね。飛んだというよりジャンプしたっていう感じだったッス。でも剣にのっかられた時はその手があったかと納得してしまったッスよ」

 何故ライバル視している霧也に対し、こんなにも詳しく負けた試合の話をしているのかはいたるにも分からなかったが、それでも不思議と寝付けない夜でついつい言葉がこぼれてしまう。
 霧也も霧也で知りたいようで、興味深々になって聞いてくる。

 二人してしばらく試合について話した後、ようやく寝静まった。

――次の日の朝、寝不足気味に霧也といたるは影森から叩き起こされた。一番朝早くに目が覚めた影森は、毎日の日課である読書を一時間した後皆を各順に起こしていった。
 一番すやすやとまだ眠っていた雲母を見て、影森はパシャパシャと写真を取っていた。

「もういいだろう?雲母起こすよ」

 呆れて御堂が起こそうとすると「まだ、寝顔の写真が足らんッ!!」と言っては攻防を繰り広げていた。
 そんな隙間を掻い潜るように、国定が雲母の布団をはぎとった。

「おい、起きろ雲母」

 流石に寒くて目が覚めたのか、雲母はとろんとした表情でこちらを見ている。

「あれぇ、私が最後でしたかぁ。なら早く朝ご飯作りましょうかぁ」

 などと言いつつ、布団を綺麗に畳むと、昨晩と同じメンバーで食事の用意を済ませてしまった。
 テーブルに並んであるのは、オムレツとサラダとパンと昨日の残りのきのこたっぷりシチューだった。

 皆で眠気眼でそれらを食べ終えると、いたるはある一つの提案をしてきた。



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