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アーザの火
24
 扉を開けると、沈んだ顔した影森と待ちわびていた国定に雲母が迎え入れてくれる。
 国定と雲母が影森にほらと小突き、御堂と視線を交わす。

「……仲間に加わる。きららんに激似の雲母ちゃんがいることだしな。ただしッ!!お前との決着がつくまでだッ!!」

「こっちだって望むところだよ。まぁ良いだろう。影森だっけ?回復魔法が得意なのは本当だろうな?」

 御堂が尋ねれば、胸をはって影森が頷いた。

「そう。なら一応仲間としてよろしく。ただし、雲母に変な気でも起こしてみろ。その時は覚悟しとけよ」

「……変な気とはなんだ?アイドルきららんにまさか俺が邪な感情など抱いてる訳ないだろう?きららんは俺にとっては憧れの女神だからな!!」

 えっへんと影森は誇らしげに答えた。その言葉に一番胸を撫で下ろしたのは雲母だ。

「良かったですぅ。私に対しても邪な感情は抱かないんですよねぇ?」

 再度影森は頷く。

「あぁッ!!当たり前じゃないかッ!!きららんは俺にとっては聖域だからなッ!!雲母ちゃんにも手なんか出す訳ないだろう」

 思ったよりかは良い奴である事に、一同も多少驚きを隠せなかったが、御堂もようやく影森に対して良いイメージを一箇所見つけられたのは大きい。
 こうして一同に新たに仲間が加わると、すぐさま影森は退学届けを提出しに職員室まで走って行った。

 改めて周りにいる生徒に話を聞くと、影森の成績は常に学年トップで回復魔法に関しては右に出る者がいないほどだという。
 それで、学校を卒業後は内定で病院側や有名な冒険者一行からオファーが来るぐらいだというのに、どの案件も断ってきたらしい。

 契約金をいくら積まれても首を横に振らなかったらしく、アイドルオタクだった事実は周囲も知らなかったそうだ。
 たまたまラブりん天使きららんに似た雲母がいたからラッキーだったものの、いなければ相手にもされなかっただろう。

 しばらく中庭で待たせて貰っていると、手続きを終えたのか慌ててこちらに影森が飛んできた。

「たった今退学してきたぞッ!!さぁ行くとするかッ!!」

 大分考えなおしてくれと学校の校長にまで念を押されたようだが、それも蹴って退学してきたようだ。
 そこで、今このパーティがどんな状況なのかを影森に詳しく説明すると、口を大きくあんぐりと開けてよほど驚愕していた。

「き、聞いてないぞッ!?軍を抜け出した大将に中将、大佐までいるなんてッ!!大体メイオって一体なんなんだ!?俺の回復魔法を上回る事が出来るなんて……ッ!!」

 メイオの事情もこと細かく伝えると、ようやく納得してくれた様子になる。影森は不思議そうに真白を眺めていた。

「ただの白翼の女だと思っていたが、男でメイオという特殊な存在だったとはな。驚かされっぱなしだぞ!こっちはッ!!」

「怒るなよ。事情を話す前に影森が了承したんじゃないか。雲母と付きあえれるなら仲間になるって。まぁそれも今は無くなったけどもさ」

 その件に関して一番安心したのは間違いなく御堂だろう。ロリコンでさらに年上だからという理由で断ったのは癪に障るが、良しとする。
 
「しっかし、今晩の宿はどうしまッスー?」

 とここでいたるが重要な問題点を挙げる。軍に追われている以上宿をコロコロ変えていたが、都市部の宿はほとんど泊まったといっても過言ではない。
 同じ場所に宿泊するのもなぁと全員で思っていると、影森が「だったら狭いがうちに来ればいい」と申し出てくれた。

「軍に追われているんじゃ、街中はさらに危険だ。俺は一人暮らしだからな、気兼ねしなくていいぞ?」

 その言葉に甘えるように一行は影森の家を目指して飛行した。
 到着した頃には夕方になっていて、影森は都市部から離れた辺鄙な場所にある一軒家に住んでいた。

「ねぇ、何でこんな学校から離れた場所に住んでんの……?」

 真白が疑問をぶつけると、眼鏡の端をクイッとあげて影森が応えた。

「人ごみとか、とにかく人が嫌いでな。それに良い運動にもなるだろう?良い場所じゃないかッ!!」

「影森って人見知りっぽいもんねー。僕も隠れ潜んで生活していたから分からなくもないけど」

「でもぉ、それじゃあ少し寂しい気がしますぅ。人は誰しも誰かと支えあって生きていかねばならないから……」

 雲母がぽつんと口に出すと、影森が慌てて否定する。

「昔から人付き合いがどうにも上手くいかなくてな。天才だったが故の孤独だなッ!!それに両親は都市部にちゃんと生きているから、安心したまえきららんッ!!」

「きららんではなく雲母ですけどぉ……」

 困ったように雲母は首をかしげる。すると、満面の笑みで影森が雲母と握手を交わす。

「そうだったなッ!!年上にちゃん付けもどうかと思うが俺は雲母ちゃんと呼ぶッ!!これからよろしくッ!!」

 他の仲間には絶対に握手を交わさなかった影森だったが、御堂が「いい加減手を離せ―ッ!!」と叫ぶまでずっと手を離さなかった。
 程なくして、影森の家が視界に入ってくると、翼を折りたたみ、地面に到着する。

 一人暮らしの割には広い室内に通され、影森が食事を作るから待ってろというと、来て早々に国定は庭に出て剣の素振りを行っていた。
 後を追うようにいたるも国定にみっちり稽古を見守りつつ、指摘し、霧也も筋力トレーニングなどの自己鍛錬を庭で行う。

 残された御堂に真白に雲母に影森が、食事番をしていてたっぷりのきのこシチューを作っていた。
 
「何だかメンバーも増えて和気あいあいとして良い感じですぅッ!影森さん、皆さんと仲良く協調しましょうねッ!!」

「……雲母ちゃんがそう言うなら、し、仕方ないなぁッ!しかぁしッ!金髪頭ッ!!お前は別だッ!!」

「別に俺とは仲良くしなくても良いから。こっちもそれを望んでないし」

 淡々とした口調で材料を切ってゆく御堂の姿に、影森は苛立ちを覚えながらもグッと堪えた。
 そんな二人を交互に見遣って雲母は声を荒げる。

「駄目ですよぅッ!二人も仲良くして下さーいッ!!」

「そうだよ。御堂も案外大人げないよね」

 真白にまでこう言われると立つ瀬も無いが、それでも二人の間に流れる、水面下で火花を散らす音がバチバチと聞こえてきそうな程、険悪なムードは変わらなかった。
 何だか今ひとつまとまりのない中で、料理だけはてきぱきとこなす四人であった。

 一方、庭でそれぞれ鍛錬を行っていた国定が黙々と素振りをする中で、いたると霧也が言い争っていた。

「だから、素振りよりも先に基礎である筋力トレーニングを行ってだなぁ……」

 霧也がいたるの訓練方針に文句をつけているようだ。

「その素振りで筋力は充分付くッスよ。我流の素人が口を挟んで良い問題じゃねぇッス!!」

「何だとッ!?確かに俺は我流の剣術だが、賭け奴隷戦でもあまり負けた試しが無いほどだぞッ?!お前こそ俺より小さくて弱いくせに、国定の訓練士なんか務まる訳がないッ!!」

「この野郎……言わせておけばッ!誰がお前より弱いだってッ!?」

 二人が今にも一触即発しそうな雰囲気の中でも、集中しているのか、国定は動じず素振りを行っている。
 周囲の雑音が最早耳に入っていない様子だ。

 そうして千回素振りを終えたところで、ようやく国定も二人に漂う険悪なムードに気が付いたようだ。

「よう。素振りは千回終わったが、二人とも何血気盛んになってやがる」

「国定が口を挟む問題じゃない。やはりこいつとは一度決着をつけねばならんッ!!」

 霧也が熱くなれば、いたるも同様に闘志を燃え滾らせている。

「上等ッスよ。その自信ごとへし折ってやるッスッ!!」

 互いに獲物である剣とナイフを手に臨戦態勢を取ると、国定が二人の頭をげんこつで殴った。

「おいお前等、ふざけんな。喧嘩両成敗っていうだろ。とにかく味方内で喧嘩やらかすと士気に関わるし、雲母をまたあんな目に合わせたいのか?」

「それは……」

 二人とも押し黙ってしまう。前回は雲母が止めに入ってくれて、結果怪我を負わせてしまった。もし庭でまたやらかしたら誰かが止めに来るかもしれない。
 主に雲母が。

「影森に治療させようとか考えてんじゃねぇぞ。それこそあいつの逆鱗に触れる。俺の大事な雲母ちゃんをよくもーッ!!とか言ってな」

「…………。」

 国定の言う通りだ。少しは頭が冷えたのか、二人ともそれでも互いに睨み合いながら、渋々三人でもう夕食も出来上がるころあいに家の中へ入って行った。

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あきゅろす。
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