アーザの火 6 昔の話だ。 今から約10年前、初めて互いが出会ったのは軍で遠征に赴く際、たまたま同じ小隊に配属されたからだった。 その頃は2人共末端の一兵士に過ぎなくて、最初の…同期として御堂の戦いを目にした時、決して攻撃的ではない魔法の使い手だと知って軟弱者だと鼻で軽く笑った事もある。 力こそ全ての、この世界において、やはり優遇されるのはいかに殺傷能力の高い魔法を使えるかに限るからだ。 けれど、殺傷能力の高い魔法だけが全てにおいて良い訳でも無い事を痛感したあの日から、国定は考えを改めるようになる。 ――灰白混じりの曇り空がどこまでも覆いつくし、広がっていた。 晴れる事も雨が降る事もない曖昧な天気で、2人にとってはこれが初陣かつ…初めて人を殺した日となる。 この頃は時世が不安定で治安も悪く、白翼のテロが各地で勃発し軍が鎮圧に赴いていた。 隊列を組んでいる時など、何かと気づけば隣にいた御堂は国定へ声をかける。 「俺、御堂って言うんだ。あんたは?」 第一印象は、馴れ馴れしい奴。 お世辞にも良いとは言えなくて…… 「馴れ馴れしく話かけんな」 思ったままを口にした。 けれど御堂は気にもとめていない様子で、悪びれもしなかった。 「はは、まぁそんな邪険にすんなよ。生きていれば、これから名前ぐらい知れるよな。……だから生きて帰ろうな」 何て当たり前でくだらない事を言う奴だ。 生きて帰るなど当然であるし、敵のために死んでやるつもりも毛頭ない。 まして、魔法の使えぬ白翼と魔法の使える黒翼とでは力の差がある。 鎮圧など、そう長引く筈もない。ウマが合いそうにもないと決め付けていた。 ――長引かないなんて考えは、払拭される。 先に現場に到着した軍の黒翼が何十人も殺され、物言わぬ死体が地面に転がっているのを目撃してしまう。 「…ッ!」 声にならない声をあげる。 思った以上に白翼の抵抗が強く、苦戦していたようだ。 轟音が響き渡る。 白翼側は銃の所持はおろか大砲などの重火器も使用しているため、辺りは鼻を付く焼け焦げた匂いと白く立ち込めた煙で視界が悪い。 「くそ…ッ!」 唇を鬱血する程噛み締め、弾丸の嵐の中を今にも単身突っ込もうとする御堂を国定は止めた。 「待て、生きて帰るんじゃねぇのか。それとも死にたいのか?」 御堂の右腕を掴むが、振り払われる。 「…誰が死ぬって?俺はこんなところで死ねない」 国定を振り切ると、御堂は仲間だった肉の塊に近づく。 かと思えば数秒程合掌して、その後は片手を広げ自身の魔力を送り込んでいた。 「無駄だ。死者は生き返らない」 そんな魔法は存在しない。 御堂の行動に何の意味があるのか。 そもそも意味があるのかすら怪しいと、国定は奇怪な者を見るような眼差しを送る。 他の何体かの死体にも同様の手順を繰り返して。 「今の俺の力じゃ…この程度が限度。死者をいたぶる形になるけど、仇は討らせてもらうッ!」 御堂が叫べば、それを呼び声に死体だった者が何体も起き上がっては駆け出していく―― 狂いなく、目指す先は敵陣だ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |