アーザの火
17
見事に腕も直ぐに動かせれる奇跡のような状態になり、国定はメイオがどれだけ貴重で底知れぬ力を持っているのかが分かった。
新たにいたるを加えたパーティになり、改めて雲母と真白と霧也は互いに挨拶を交える。
「こっちこそよろしくお願いしまッスー」
「え?あぁ、はいですぅ……」
またも御堂の後ろに隠れるとハッキリと雲母は口にした。
「何だか、表面は柔らかくて気さくな方なんですが、怖いですぅ。どうしてなんでしょう??」
御堂に尋ねてみると「内海元帥の副官だった人だからねぇ。二人して雰囲気似てるから怖がるのも無理ないよ」と返ってくる始末である。
「それどういう意味ッスかぁ?俺、内海元帥ほどドSじゃないのにー」
すかさず国定が突っ込みを入れる。
「おいそれ、ほどじゃないにしろ半分は認めてるようなもんだぞ」
けれども何が面白いのか、いたるはにやにやとほくそ笑んでいる。
「そッスかねぇー?ありゃー、自覚なかったですわー」
「嘘付けッ!!」
雲母以外全員がノリツッコミをすると、国定がいたるに確認しだす。
「内海が来れないってのはどういう意味だ……。俺はあいつに会いたいのに…ッ!!」
「気持ちは分からなくもないんですが、無理ッスよ?まぁ、本人に会ったら直接理由聞いてあげて下さいッス」
ここでも、いたるから内海が国定の元へは行けない理由が聞けなかった。
御堂も以前同じような言葉を吐いていた。直接本人に会って問えと。
――内海、いつか必ず出会う日を待ってるからな。
「ところで、お前何でメイオの特性とか知ってるんだ?それも内海から聞いたのか?」
国定がいたるに問いかけると「そうッスよー」とだけ簡単に返ってきた。
「……とにかく、さっきはいたるが裏切ったから勝てたものの、次に大元帥に会うまでに何とか対策を練らなきゃな……」
今後もどんどん刺客が放たれてくるのに、無策というわけにもいかない。
国定は全員を円陣を組むように皆を集めると、今後の対策について議論を投じる。
「さっき見てたとおり分かっただろう?いかに大元帥が強いかが。そこでだ、何か意見はないか?些細な事でも構わん」
リーダーとなって仕切ったはよいものの、御堂は「じゃあ俺はあらかじめ洗脳できる物か武器を手に入れるよ。雲母も銃の保持くらいはしといた方が良いだろうね」と返答がきただけでこれといって決定打にかけている。
何か、大元帥を倒す策がないものか、と思案していたら意外にも真白から提案があった。
「魔法封じなら僕が出来ない事もない。時間さえ稼いでくれればね。ただ、その時間を稼いでる間に魔法を強化できないの?火と風のそこの二人で」
そう言われ、いたると顔を見合わせる。二人して納得した様子で合点がいった。
「火と風魔法の合体攻撃なら試す価値はありそうだなッ!」
「じゃあ早速特訓ッスねッ!」
反対属性の魔法同士ではないものの、やってみる価値はありそうだと踏んだ二人は、この日から猛特訓の日々が始まろうとしていた――。
マール島都市部に着いて早々に御堂はナイフを20本は服に隠し入れるため買い物をし、雲母にも護身用に銃を一丁持たせた。
霧也に至っては真白を抱えての空中戦は不利だと悟り、なるべく真白に攻撃が当たらないように後列に待機させる作戦だ。
その間、いたると国定が合体魔法で時間を稼ぐ間、真白がメイオの魔法封じを発動させる。
そして武術や剣や銃のみで大元帥を仕留められれば、こちらの勝ちである。
国定も剣を買い、早速マール島都市部に来て早々に打ち込み試合を行った。
雲母には御堂が銃の使い方を教えていて、霧也も真白を片手に抱えた状態からナイフで攻撃できる練習を繰り返していた。
国定がまず剣を降りおろすもいたるはあっさりとそれをかわし、逆に打ち込みに行く。
キンッという鈍い剣同士がぶつかりあう音が響く。咄嗟に剣で防いだが、国定の場合使い方がなってなかった。
それもそのはずで、一般人でさえ黒翼なら誰しも魔法を中心に鍛え上げさせられる。
武術が得意な黒翼はまずそうそうにいない。すべて魔法でなんとかなってしまうからだ。
いたるが少し力を加えると、鍔迫り合いもあっさりと負けてしまい。剣が手からすり抜け落ちた。
カランカランと剣が地面に叩きつけられ、いたるの刃先が国定の喉元の直前を狙う。
「国定さぁん、まるでなってないッスよ?これじゃ試合にすらなりませんて」
「クソッ!!剣なんか大体俺たちに必要じゃなかっただろッ?!」
背中からじんわり汗が吹き出ると、息も乱していないいたるが平然と言ってのける。
「これ、江月から習ったんスよ。ちなみに内海元帥、俺より強いッスよ?剣の腕前でも」
「……内海も同じように剣を習っていたとはな。初耳だぜ」
「だからこそ国定さんには一日でも早く強くなってもらわなければいけないッス。軍の奴等がこんな南の島まで来る前までに」
呼吸を乱しても、休む間もなく国定は次の特訓メニューをこなしてゆく。
いたるとの合体魔法だ。こっちの方が得意分野だけあって国定といたるの息も合ってくる。
風の渦と螺旋を描いた炎のコンビネーションが木々を燃やし、なぎ倒してゆく。
そうしてメイオの家を訪ねる前に、まずここマール島にて各々特訓の日々が始まった。
御堂は洗脳魔法でナイフを操り投げ飛ばす練習を。雲母に至っては木に的を描いて銃の命中率を上げる特訓を。
霧也は片手に20sの重りを抱いて片手でも剣を扱えるように。
真白に至ってはメイオ特性の魔法封じの速度を上げるため、血を使い自分の太ももにマークを描いて5分程度しか使えない簡易的な術を完成させた。
本来は、国定たちが来たときのように、屋敷中いっぱいに術式のマークを描けば24時間は魔法封じを完成させられる。
これはあくまで一般的なメイオがやるやり方で、おそらく緋眼の死神とはまた方法が異なるのだろう。
そうでなければ、戦争を終結させるだけの魔法封じに、兵器を溶かしつくす二重の術式は出来なかったであろうから。
国定はまず素振りを練習するところから始まった。本格的に剣に慣れるためだ。
1万回は素振りを経て、各々宿屋で就寝する。
たまには違ったチームメイトと寝泊りして交流を深めるのが目的らしく、グーチーパーで合った順に二人ずつ部屋を割り振った。
雲母も一人部屋だと寂しいといっていたので。無論女性に手をだしたら御堂が殺すとまで言った脅しつきで、それぞれ分かれて行動した。
グー同士で合ったのが雲母と国定だった。チーで合ったのが真白といたる。パーで合ったのが御堂と霧也だ。
ここには前のような大浴場などはなく、それぞれ個室にシャワールームがあるだけだった。
まずはグー同士であった雲母と国定だが、これと言った弾む会話が見当たらない。
親交を深めるといっても、国定は雲母が個人的に気に入らないし、雲母は怖くて話しかけられないのだ。
「…………。」
無言でチラリと雲母が国定を見たら、睨み返された。
「ひッ……ッ!一々睨まないで下さいよぉッ!」
それでも彼女なりに懸命に喰らいつくと、国定はふと表情を緩めた。
「睨んだんじゃねぇよ。目つきが悪いだけだ。これなら怖くないんだろ?ったく女って奴は面倒くせぇな」
「はいぃ。ってそ、そんな言い方しなくても良いじゃありませんかぁッ!面倒だなんて他の世の女性を敵に回しますよぉ?」
「真実を言ったまでだ。化粧だの身なりだの何かと面倒だしな。どっかの誰かみたいに直ぐ泣くし」
「なッ!どっかの誰かって完全に私の事じゃないですかぁッ!!酷いですぅッ!!」
ポカポカと雲母に頭を殴られても大して痛まないので気にせずにいたら、急に眠気が襲ってきた。
このまま眠っては昼間鍛錬した汗が流せないので「先、シャワー入る」とだけ雲母に告げてスッと風呂場まで歩いていった。
「もうッ!自分勝手な人なんだからぁッ!」
そしてろくに親交も深められないまま、国定がシャワーから上がると即効で布団に転がり、眠ったのはいうまでもない。
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