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アーザの火
15
 周りを見渡せばいつもの顔ぶれがあったが、雲母だけが心配そうに御堂の顔を覗き込む。
 国定は機嫌が悪そうにまたタバコを吸っていて、霧也と真白は相変わらずつかず離れずの距離を保っていた。

「御堂大丈夫ですかぁ?ところで今度は何が視えたんでしょう?」
 
 やや沈黙の後、御堂が口を開く。

「……雲母、流水さんって覚えてる?彼がメイオで、しかも俺たちの家によく遊びに来ていたのに、名前忘れちゃってた流水さん」

 雲母はあぁッ!と思いだしたかのように両の手をパンッと軽快に叩く。

「そういえばあのおじい様!流水さんっていう名前でしたねッ!!すっかり忘れてしまってましたぁッ!」

「うん、その流水さんがメイオで緋眼の死神と親交があったんだ」

 その言葉に真白と霧也も目をパチクリと瞬かせている。国定も一瞬動揺してタバコを地面に落としそうになっていた。

「どういうこと……?何で雲母と御堂の知り合いが、緋眼の死神と親交があった訳?意味わっかんない」

「多分俺たちの特殊な魔法に興味があって近づいてきてたんだと……思う。今にしてみれば」

 御堂の言葉にどうしてだか納得が出来なかったのは真白だ。
 詳しく話を聞きだすと、彼が旅人である事実も分かってきた。

「二人にとっては、流水って旅の人が家に訪ねて来てたっていう知人だった訳?」

「……はいですぅ。村で迫害されてた私たちに唯一優しく接してくれたのが流水さんでした」

 それ以上は本当に何も知らないと言いたげな雲母に、真白も追求するのを諦めた。
 タバコを吸い終わった国定が声をかける。

「簡単な話だ。そいつだってメイオなら柄を持ってる筈だ。会いさえすれば、ルーア・ルースに行けるぞ」
 
 いずれ辿ってゆけば会えるであろうといった風に完結させて、雲母に次の目的地を聞いた。
 
「ええと、次は南に位置する、マール島の都市部に強い反応がありますぅッ!」

 地図を確認しても、そこに印が書かれていた。
 じゃあそこに行くしか、他に近道もないならサクサクと行こうではないか、と全員が思ったところでこの絶妙な空気の悪さを肌で感じ取る。

 主に国定と御堂が喧嘩しているのが悪いのだが、二人とも態度を改める気はないようだった。
 二人は一切話さずに、次の目的地まで飛び立つと、途中で休憩地点を設けた。

 宿屋でも、御堂と雲母の二人部屋に、国定と真白と霧也の三人部屋になってしまった。
 女性と男性が一緒に泊まるのは常識的にどうかとか、今まで一緒に暮らしていた御堂たちに万が一もないが、やはり不自然だ。
 
 こういう場合は大抵、唯一の女性である雲母が一人部屋を取っていたのだから。
 真白たちもいきなりいつにもまして眉間に皺を寄せている無愛想な国定は、かえっているだけで邪魔なだけだったりする訳で。

 そうそうに会話もなしに就寝を決め込もうとした国定に、真白が話しかける。
 
「ねぇ、内海って人のことになると途端に余裕なくなるよね?国定ってさ。だから御堂と喧嘩してんだろうけど、焦ったってしゃあないんじゃないの?」

「……うるせぇな。人の睡眠妨げんなよ」

 くるりとあさっての方向を向いて布団に包まった国定に、霧也も見かねて声を大にして出す。

「そうやって、御堂にも駄々をこねていたって何も変わりはしないぞ」

 言うが否や、国定は飛び起きて霧也に枕を投げつける。ボフッと良い音がして、顔面に直撃した。

「わーってんだよッ!!ただな、一番の親友だと思ってたあいつに隠し事されんのも腹立たしいし、内海が俺を追いかけて来ないのもひっくるめて、全部ムカつくんだよッ!!」
 
 受け止めきれずに直撃した枕を、今度は霧也が国定の顔面めがけ思いっきり投げとばす。
 それを今度は国定が上手くキャッチできずに顔面に飛んできた。またもボフッと良い音が木霊する。

「てめぇッ!!やりやがったなぁあああッ!!」

 こうなれば言葉はいらなかった。一気に枕投げ会場と化すると真白も面白そうに国定に向かって枕を投げつけた。

「二対一は卑怯だろうがぁああああッ!!!」

 割りと本気で切れていても、お構いなしに二人は国定に向かって枕をぶつける。
 国定は国定でしっかり応戦している方だが、分が悪い。

 でも、何かでストレス発散出来るのは心地良かった。
 そうして寝るギリギリまで枕の投げ合い合戦を終えると、全員の額から汗が滴っていた。

 息が荒いのは真白と国定だけで、呼吸の乱れがなかったのは霧也だけだ。
 霧也も汗をかいてはいたが、二人に比べるとそうでもない量で、悠然と国定に視線を向ける。

「少しは気が晴れたか?お前には俺たちっていう仲間がいるだろう。少しは頼れ」

「はッ、ご忠告のつもりかよ」

「単純に心配してるだけだ。国定は全部一人で抱え込む癖みたいなのがあるからな」

 図星を突かれると何も言えなくなってしまう。チャマの森で暮らしてた頃はいつも内海に相談ばっかりしていた。
 でも、大人になるにつれて、誰かに頼るという発想が無くなってしまっていたのは間違いない。

「まだまだ子供だねぇ、国定もッ!僕らもッ!」

 ニッと唇の端を上げて笑う真白がいて、肩をポンッと叩かれる。
 そうか。今になって気づいたが、国定は内海という存在に少し依存しすぎていたようだ。

 だから周りが見えなくなって、焦って、御堂にも辛く当たってしまった。
 人には誰しも言いたくない言葉の一つや二つあって当たり前だというのに……。

 それさえ、親友という括りで全部曝け出せなんてムシが良いにも程があったというわけか、と納得すると国定は隣の部屋に向かった。
 
「あっ、ちょ国定?!」

 真白の静止も振り切って、御堂の部屋をコンコンとノックする。
 中から雲母が出てきて「国定さん……?」と身長差からか上目遣いで出迎えられた。

「御堂、起きてんなら話がある」

 当然隣で激しく枕投げ合戦をしていて、壁越しで音が響き煩くて眠れやしなかった御堂が顔を現す。

「国定……」

「……悪かったな。親友だからって言いたくない言葉の一つや二つぐらいあるのに、それを強制的に言えだなんて。内海の事になるとつい頭に血が上っちまう」

「いいよ。俺だって隠し事してるんだから……。ただ、内海元帥から直接聞くのが一番良いんだ。これに関して言えば」

 横で二人のやり取りを見ていた雲母が、何故か泣いていた。

「ぐすッ。仲直りしてくれて良かったですぅッ!」

「馬鹿、何でお前が泣いてるんだよッ!」

 国定が雲母の頭を軽く小突く。

「泣けない二人の分まで泣いてるんですよぉ?ぐすッ」

 雲母が鼻をすすりながら、満面の笑みを咲かせると、つられて皆が笑顔になる。

「国定、俺もごめんね?」

「もういい。俺が内海に執着しすぎていただけだ」

 そして、くるりと踵を返すと、それぞれの部屋のベッドへと戻り就寝をとった。
 
――翌朝、宿屋の前で全員が集合すると、マール島にある都市部を目指してゆく。
 霧也は変わらず、片翼の真白をがっちりと支え、雲母は御堂に手をひかれて。
 
 国定だけが自由気ままな身なのも、戦闘要員としてはこれはこれで良かったのかもしれない。
 一番このパーティメンバーの中で強いのは国定だから。

 マール島都市部を目指して一行が進んでゆくと――500メートル先に見慣れすぎた軍服に身を纏った5人の軍人がこちらに接近していた。
 変装しているとは言っても、もう既にこちらの正体が見破られていて、急速に近づいてきている。

 その中には見知った顔が一人だけいたが、中には……現役の大元帥が混じっていた。
 
「あれー?お久しぶりッスねぇ!国定大将ッ!!」

「いたるか……」

 内海元帥の副官であるはずの大佐のいたるに、大元帥が混じったパーティ編成に違和感を覚える。

――内海がいない……だとッ!!?

 混乱している場合ではなく、国定は目の前の敵を見据えると「何故内海がいないッ!?答えろいたるッ!!」と叫ぶ。
 大佐であるいたるより先に、大元帥が質問に応じてきた。

「内海元帥とはたまたまチーム編成が組み込まれなかっただけの事よ。さて、わし一人で魔女以外全員殺すから皆は下がっていなさい」

 こう言われればいたるは「そりゃないッスよーッ!俺御堂中将とも戦った事なくて楽しみにしてたんスからー」と一人頬を膨らませてむくれている。
 
――まずい。大元帥なんかに敵う筈がないッ!!!

 御堂と国定も思考の理解が早かったのか、二人で掌を前方に翳す。確かこの大元帥は……国定と同じ風魔法の使い手だった筈だ。

――無理だ。無理だ無理だ無理だッ!!

 本能が警告を鳴らしまくっているッ!!敵うはずもなくここで死んでゆくと……ッ!!

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