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アーザの火
14

 下界など誰が好んで行きたがるもんか。いつだってどんよりとした風景に、冷気さえ感じる場所だ。
 ぶつぶつと国定は好き勝手に文句を言いながらも結局は降り立ってしまうと、案外匂いなどは思っていたよりかは酷くない。

 ただ、歴史書でしか見た事のない電化製品の山々に一同は驚いてしまう。

「すっごいねぇッ!これ、せんぷうきってやつだよッ!確かッ!!」

 好奇心旺盛な真白は次々に手で漁ってゆく。

「こら、マスター。手が汚れるからあまりべたべたと触るな」

 まるで親のような霧也の口ぶりに真白も素直に従う。これではどっちが主従なのだろうか。
 クスリとまた困ったような顔で御堂が小さく笑う。

「はぁい。で?雲母、この中から探すんだよねぇ?」

「そうですぅ。この辺りに強い反応があるので間違いないですよぉッ!」

 すっかり意気投合した二人は、傍からみるとまるで女の子にしか見えない。
 いつの間にか仲良くなった二人に、御堂と霧也は柔らかく互いに顔を見合わせ微笑む。

「うちのマスターが、お前の幼馴染とすっかり打ち解けているな」

「良い事だね。女の子同士はやっぱり華があっていいねぇ」

「……マスターは男だろうが。まぁ、言いたいことは分かる」

 華やかさにおいて、メンバー内では確実にこの二人が担当だろう。
 真白はどう見たって女性にしか見えないし、育ての母から女装するように言い聞かせられていて、それを今でも守り通しているらしい。

 何故というよりかは最早趣味に近いレベルだそうだ。本人によると。
 特に意味は無いらしいが、やはり育ての母だった灰音の存在が大きいようだ。

 そんな身近な存在を殺されて、しまいには元在という真白にとっての親しき人物が突然いなくなった。
 だから、真白は旅にも同行しているようで、原因を探っているとも言ってる。

 イマイチ御堂に対しては、真白は未だに棘を含んだ物言いで迫る事が多いが、雲母の存在のおかげか大分信用されているようにも思う。
……前から比べれば、だが。

 相変わらず御堂は国定とは話が出来ていない。あれから一言も口を開こうともしないのはお互い様ではある。
 しかし、今は知らなくて良い事実なら、国定に教える気など御堂にはさらさらなかった。

 真白は手が汚れるという理由からか、何故か霧也が「マスターの分まで俺が探す。それが奴隷の役目だからな」といってそれ以外の者全員でイーリスの柄を絶賛探索中という訳だ。
 雲母は魔法を使いながら、近くに反応を示しているのを皆に示唆している。

 使えなくなった電化製品が粗大ゴミのような塊で連なっている中で、国定が壊れたテレビを退かすと――イーリスの柄がようやく見つかった。

「おいッ!ここにあったぞッ!!」

 声を上げて、柄を掴んだまま片手をあげると、皆安堵の表情を示した。
 それを御堂に渡すのに躊躇い……やはり視線も合わさず無言になってしまう。もう見ていられないといった具合に真白が切り出した。

「あのさぁッ!いつまで喧嘩してんのさッ?!良い大人がみっともないよ。全体の士気に関わるから止めてくんない?」

 両手を組みながら二人の間に真白が割ってはいると、雲母が宥める。

「な、何があったのかは知りませんが、仲良くしましょう、ね?真白さんもそうあまり怒らずに……」

 しかし、国定からすると、隠し事をされたままというのが一番嫌いで面白くないモノだった。
 内海の事を何か知っていて、話す気もない癖に。と心の中で悪態をついてしまう。

「……お前、俺に隠してるだろ。内海の件でだ」

 ついつい本音が口から滑り落ちると、国定はキッと強く御堂を睨みつける。
 けれども、御堂はただただ真剣な声色で語る。

「今は言うつもり無い。本人に会って直接聞くべきだ」

「あーそうかよッ!!だったらもう知るかッ!!」

――どうせこいつの事だから、俺のために言わないでいるだけだッ!!

 プイッとそっぽを向いて国定は御堂に渡す物だけ渡してしまうと、真白を含めた他の皆がなんとも言いがたい空気に包まれてしまう。

「何このパーティ……」

 真白に至っては完全にあきれ返っている。

「あ、あのぅッ!どうか国定さんも拗ねずに、ね?内海さんの件は本人に会ったら聞くと良いですよぉ」
 
「その本人にいつになったら会えるんだよッ!!何で内海は俺を追いかけてこないッ!!」

 雲母に当たっても仕方がないというのに、苛立ちからかついつい怒鳴ってしまう。

「ひッ!わ、私に怒られましても……」

「そうだよッ!!雲母に当たるなッ!!見苦しい」

 とうとう御堂も苛立ってきて、辺りは険悪なムードが漂う。

「もう、ここらで止めにしろ。根本的解決にはならない」

 見かねて霧也が止めに入っても、ただ沈黙が広がるばかりだ。
 重苦しい空気の中、全員で下界から翼をはためかせ、飛び立つとようやく見慣れた空に浮かぶ島々へと戻ってこられた。

 広いセウ島の離れ小島でフロレスタ島に着くと、文字通り森で多い尽くされた場所だった。
 マナの補充にはうってつけの自然が多いこの島で、黒翼の皆々は早速充填を開始する。

 いつ軍に攻められても魔法だけは使えるようにするためだ。2時間程の滞在で充分にマナを体内に取り入れると、今度は御堂がイーリスの柄を無言で握り締める。
 相変わらずの重苦しい空気内に「あー、やだやだ」と真白がぼそりと吐く。

 そうして御堂がいつものように瞼を閉じて、柄に眠っていた記憶を探る。

――すると、いつもの見慣れた研究施設で、一見すると黒翼のとある知り合いがビジョンに写し出される。
 幼い御堂たちの家に再三訪れては旅の話やらを聞かせてくれた、名前がどうしても思い出せないあの人の姿。

 緋眼の死神と親しく話していて、彼もメイオだったとここでようやく気づけた。

「なぁ、流水。俺たちで楽園を創れるかな?もう誰も悲しむ必要のない、新たな存在のメイオだけの」

「時間がかかるがな。なに、戦争を終わらせられるぐらいの魔法封じが簡単に発動できたお前だ。出来ない事はないさ」

――そうか、彼は流水と名乗っていたっけ。どうしてこんな大切な事を今まで忘れられていたのだろうか。
 何か見落としている。彼はよく旅に出ては、ふらりと御堂たちの家に寝泊りに来ていた。

 そしていつも、雲母が暖かいシチューを作ってはご馳走していたっけ。
 彼の好物であるパイとシチューは訪れる度に、食卓に上がっていてとりとめのない会話を楽しんでいた。

「流水さんって、凄い沢山の世界を渡って羽ばたいているんだねッ!!僕尊敬しちゃうッ!!」

――20年前、村で迫害を受けていた雲母との心細い生活の中で、唯一俺たちに優しくしてくれた大人だ。
 一年に4回、季節の変わり目ごとに訪ねてきては、各地の美味しい物の話とか冒険の話を聞かせて貰った。

 それがある日、御堂が16歳で雲母が14歳の頃には、パタリと家に遊びに来なくなる。
 何故だとか、寂しいだとか、色んな感情が渦巻いていた気もするが、その2年後には御堂も軍に志願し、雲母を残したまま家を出た。

 
――とここに来て、色んな過去を振り返りつつ、御堂の意識は現在へと強制的に引き戻される。

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あきゅろす。
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