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GROW SIDE
そうして自然に僕たちは。






「うわあぁあぁ!」
「何初々しい声上げてるかな」
僕達は並んで向かう執務室のドアから、バタバタと取り乱して飛び出て来たウェインを物珍し気に眺めた。
「ああ、オスカー先輩!あの部屋!俺の他に誰も居ない筈なのにパラパラ紙をめくる音が聞こえるんですよっ!」
「休め」
「俺は疲れてないよアーネスト」
「ならば気のせいだろう、休め」
「言ってる事(意味)同じじゃないか、丸きり信じてないな?」
僕は親友へ恨めし気に唸るウェインの肩を叩いて落ち着かせる。
「まあまあ、ジュリアは?」
「先輩も留守です」
「他に何か不審な事は?」
「無いですけど…嫌な感じはしないけど」
そこでウェインはゴクリと唾を飲んだ。
「ナニかいると思います」
うーん、かなり真剣だ。
でも、「ああそうなんだ」とは言えないよね。
「判った、とりあえず部屋に戻らないかい?確認しないと」
そうする事は至極当然だろうに、でもウェインの目は決まり悪そうに泳ぐ。
「俺、その手の話は苦手で…先に二人で見て来て欲しいなぁ……なんて」
おやおや。
元気が売りのウェインにそんな弱点が在ったとは。
「困った後輩君だね」
「まったくだ」
肩を竦めて笑った僕にアーネストは頷いて、ドアの前までは付いて来た浮かない顔のウェインの肩に、ぽんぽんと掌を弾ませた。


見慣れた室内をぐるりと見回す。言われた通り誰も居ない。少なくとも形有る者は。
僕は開けっ放しの窓の縁に手をかけた。
「風の所為かな?」
「今日はそれ程風は無い。もし吹いていたら、お前の机の上は散乱しているだろう。“パラパラ”処じゃない」
「うるさい小姑」
そんな事言ったら理由が付かないじゃないか。
それはそれで別に構わないけどさ。
「なら、ウェインの勘違いじゃないとして、彼の言うとおり何か居るって訳だけど?………――ああ」
アーネストが可愛げの無い事を言ったから、ふと視線が行く自席。それで気付いた。
積み重なる書類の脇に置いておいた、読み始めたばかりの、その書籍。
「そっか……」
……意味不明な怪奇よりよっぽど理由は付くかもしれない。
「なんだ?」
「これだよ、この本。シリーズの最新巻が出たんだ」
僕が見せた表紙のタイトルに、彼は当然思い当たる節があったみたいだ。
「リシャール様も読んでいたな」
ご名答。自分は分野外の癖に流石だね。
僕は窓際に寄り掛かる。
「そう、知っているかい?リシャールはこれの登場人物の一人が大好きだったんだ。ストーリー自体も面白いけどね。どちらかと言うと、リシャールはそのキャラ目当てで読んでいたね」
「……ほぅ」
アーネストはそこまでは知らなかったみたいだ。僕は少し得意気に思う。
「それで?」とは彼は言わない。
風が入って来たけれど、やっぱり机上の書類が音を立てる程では無かった。
「読みに来たかな?」
少し冗談めかして言ってみた。
そうして自然に僕たちは、そこからの長閑な景色を眺めている。
――懐かしい彼が、よくそうしていた様に………





fin.



++++++++++
ヘタレにしてごめんねウェイン君。(苦笑)


2004.10.15up。
(2005.06.27:加筆修正、再up。)








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